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書類送検や逮捕されただけで“犯人扱い”する風潮に警鐘の声…弁護士に聞く

私たちには、書類送検されただけでその人を犯人扱いする傾向があるという意見がSNS上などで話題に。「大切な注意喚起」「逮捕=犯人は誤解」などの声が上がっています。

書類送検や逮捕で犯人扱い。法的見地からは?

 刑事手続における「書類送検」が先日、SNS上などで話題となりました。ニュースなどで、書類送検というだけでその人を“犯人”として扱う傾向が蔓延している、という意見を巡り、「大切な注意喚起」「逮捕=犯人は誤解」などと共感する声が上がっています。これらの議論について法的見地からはどのようなことが言えるでしょうか。オトナンサー編集部では、芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

有罪判決確定まで「前科」にならない

Q.そもそも、書類送検とはどのような手続きのことですか。

牧野さん「刑事事件を警察から検察へ送致(送検)する場合、容疑者の身柄が逮捕により確保され、身柄付きで送検されるのが『通常送致』です。一方、容疑者の身柄がなく書類だけで送検する場合があり、これが『書類送検』です。一般的に、被疑者に実刑が見込まれる時や、逃亡・証拠隠滅の恐れがある場合は通常送致に、被疑者が反省し執行猶予などの軽い判決が見込まれる時や、被疑者に逃亡や証拠隠滅などの恐れがない場合などには、書類送致になるとされています」

Q.法的手続きにおいて、前科とはどの段階で「付く」ものなのでしょうか。

牧野さん「法律的には、刑事事件として起訴され、有罪判決を受けてそれが確定するまでは『前科』になりません。逮捕、書類送検、送検、起訴の事実は警察や検察に記録として残ることはありますが、有罪判決を受けてそれが確定するまでは、前科とは言いません。有罪判決には、実刑および執行猶予付きの判決(一定期間罪を犯さなければ刑の執行が猶予される有罪判決)はもちろん、罰金や科料も含まれます。なお、刑の執行を終えて一定期間(禁錮以上の刑の場合10年)を経過した場合や、再犯により刑の執行猶予を取り消されることなく執行猶予期間を経過した場合は、刑の言い渡しの効力が消滅すると言われていますが、刑の言い渡しの事実そのものが消滅するわけではなく、剥奪されていた公民権や特定の職業・資格の取得制限などが回復されるにすぎません」

Q.事件報道などを目にした際、容疑者や被告の権利に関してどのような心構えが必要だとお考えですか。

牧野さん「テレビドラマにもあるように、日本の刑事裁判の有罪率は99.9%と非常に高い数字です。つまり、刑事事件として起訴されれば、ほとんどが有罪になります。しかし、逮捕されればすべて起訴されるかというとそうではありません。刑事事件が発生すると、通常は捜査機関で容疑者を逮捕して取り調べを行い、逮捕から48時間以内に事件を検察庁へ送致(送検)します(逮捕せず捜査する場合は、送検まで時間制限はない)。容疑者を刑事事件として起訴するかどうか決定する権限を持っているのが検察庁です。検察庁は、その事件を裁判で確実に有罪にできると自信がない限り起訴をしないため、検察庁へ送致された事件の約53%が不起訴処分になると言われているのです」

牧野さん「逮捕されると『容疑者』、起訴されると『被告人』、有罪判決が確定すると『犯罪者』、実刑の有罪判決のケースで収監されると『受刑者』となりますが、法律的には無罪が推定されますので、有罪判決が確定するまでは犯罪者ではありません。逮捕後の取り調べの結果によっては罪が軽微であったり、証拠不十分で不起訴になったりすることは確率としても高いため、『逮捕=犯人』というレッテルを貼るのは時期尚早と言えるでしょう」

(オトナンサー編集部)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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