“しつけ”で子どもをたたいたり殴ったりする行為、大人は法的責任問われる?
「しつけ」と称して、子どもをたたいたり殴ったりした場合、親や周囲の大人は法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。弁護士に聞きました。
かつては子どもが悪いことをすれば、親だけでなく、教師や近所の人などがたたいたり殴ったりして、“しつけ”をすることも珍しくありませんでした。しかし、子どもに対する虐待が社会問題化するようになってから、そうした光景は見られなくなり、たとえ、しつける目的であったとしても、たたいたり殴ったりすれば、暴行容疑で逮捕されることもあります。しつけと称して、子どもをたたいたり殴ったりした場合、親や周囲の大人は法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。
親には懲戒権があるものの…
Q.親がしつけと称して、悪いことをした子どもをたたいたり殴ったりした場合、法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。
牧野さん「2020年4月から施行された改正児童虐待防止法の14条では、親権者がしつけに際して、子どもに体罰を加えることを禁じており、しつけと称して、子どもをたたいたり殴ったりした場合、親は法的責任を問われる可能性があります」
Q.では、どのような罰則を科される可能性があるのでしょうか。
牧野さん「子どもにけがをさせた場合は傷害罪(刑法204条、15年以下の懲役または50万円以下の罰金)に該当する可能性があります。また、死なせてしまった場合はもちろん、殺人罪(刑法第199条、死刑または無期もしくは5年以上の懲役)や傷害致死罪(刑法第205条、3年以上の懲役)が成立し得ます。そもそも、子どもがけがをしなかったとしても、人に暴行を加えた時点で暴行罪(2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料)に該当する可能性があります」
Q.子どもをたたいたり殴ったりした時点で、親は法的責任を問われる可能性が高いということでしょうか。
牧野さん「必ずしもそうとは言い切れません。親子間のケースでは、行き過ぎたしつけにより、『暴行罪』に該当する場合でも『正当行為』(刑法35条)として違法性を阻却され、罪に問われないこともあります。民法820条と822条で、子の利益のために必要な範囲で、親の子どもへの懲戒権を認めているためです。
・民法820条
親権を行う者は、子の利益のために子の監護および教育をする権利を有し、義務を負う。
・民法822条
親権を行う者は、第820条の規定による監護および教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる。
個々の具体的な事例で判断されるべきですが、一般的に過度なしつけが犯罪に該当する場合は違法性を阻却されず、犯罪に問われる可能性があるでしょう。なお、欧米では、子どもの安全を守るために、子どもへの虐待に対する規制が厳しく、一定年齢未満の子どもだけで通学させたり、留守番させたりすることも虐待とみなされています。また、ニュージーランドでは、14歳未満の子どもの留守番は違法です。親子(特に父娘)で入浴しただけでも虐待とされる場合があります」
Q.では、周囲の大人についてはどうでしょうか。他人の子どもから、いたずらなどの危害を加えられた際、懲らしめる目的でたたいたり殴ったりした場合、法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。それとも、危害を加えた子どもに非があったとして、法的責任を問われないのでしょうか。
牧野さん「先述のように、たたいたり殴ったりした時点で暴行罪に問われる可能性があるので、いたずらをされたからといって、決して手を出してはいけません。実際、他人の子どもにいたずらをされた大人がその子をたたいて、逮捕された事例もあります。黙って、その場を立ち去るか、子どもが判別の付く年齢だった場合は口頭で注意すべきでしょう」
(オトナンサー編集部)
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