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テレ朝社員転落で批判 飲食店やカラオケ店が営業を続けるメリット、デメリット

飲食店やカラオケ店などが、緊急事態宣言に伴う休業要請や時短要請を無視して営業するメリット、デメリットについて専門家に聞きました。

休業要請や時短要請無視にメリットは?
休業要請や時短要請無視にメリットは?

 東京や大阪など6都府県に発令中の緊急事態宣言が9月12日まで延長され、8月20日からは茨城、栃木、群馬、静岡、京都、兵庫、福岡の7府県、8月27日からは北海道、愛知など8道県が宣言の対象に加わりました。しかし、都内では、緊急事態宣言の発令後、休業要請や時短要請を無視して、午後8時以降も営業を続ける飲食店が増えており、宣言の効果を疑問視する声もあります。

 そんな中、8月9日の未明、テレビ朝日の女性社員が都内のカラオケ店の窓から転落する事故がありました。報道によると、当時、女性社員は店内で同僚ら9人と酒を飲んでおり、ネット上では、深夜まで酒を提供していたカラオケ店にも多くの批判が寄せられています。飲食店やカラオケ店などが休業要請や時短要請を無視して営業するメリットはあるのでしょうか。経営コンサルタントの大庭真一郎さんに聞きました。

一定の経営改善効果は見込めるが…

Q.8月27日から、緊急事態宣言の対象地域が21都道府県に拡大しました。緊急事態宣言の効果を疑問視する声もある中、飲食店への影響についてどう思われますか。

大庭さん「緊急事態宣言の延長や対象地域の拡大が飲食店に与える影響は甚大です。コロナ禍で中小の飲食店の中には、すでに手元の資金を使い果たし、新たに調達するめども立てられずに風前のともしび状態となっている事業者も多いです。世間の大半の中小の飲食店が一刻の猶予もならない経営状況に陥っていると認識しています。

あくまで個人的な見解ですが、私は緊急事態宣言による飲食店への規制強化に反対です。飲食店だけが飛沫(ひまつ)感染の温床となっていることを表す客観的なデータなどが存在しないことと、飲食店だけに矛先を向けることへの合理的な理由が見いだせないからです」

Q.飲食店やカラオケ店などが休業要請や時短要請に従わずに、午後8時以降も営業を続けるメリット、デメリットについて教えてください。

大庭さん「午後8時以降の営業で想定される主なメリットは(1)経営を維持できる(2)一部の客との間で関係強化が図れる、といったことです。休業・時短営業をする店がある分、店の集客力が高まり、売り上げの増大効果が期待できます。また、国の姿勢に疑問を抱く客と考え方が一致することで、客との関係性が強化されることもあります。

主なデメリットは(1)店のイメージが悪化する(2)金融機関や株主との関係性が悪化する(3)過料が科せられる、といったことです。『法令を順守しない』という理由で店としてのイメージが悪化し、金融機関や株主からの信用が低下する恐れがあります。行政命令違反となった場合は過料が科せられます」

Q.都内では、休業要請や時短要請に従わない飲食店が増えていると報道されていますが、店の経営を守る上では、やむを得ないのでしょうか。

大庭さん「先ほど、飲食店に対する規制強化に反対と申し上げましたが、一方で『要請はお願いなのだから、従う義務はない』などと主張して、休業要請や時短要請を無視する姿勢は公序良俗に反すると私は考えます。休業要請や時短要請は法律に基づいて出されているからです。

しかし、事業主には『従業員や取引先、その家族など、事業に関わる人たちの生活を守り、納税することで社会に貢献し、国民の生活に寄与する』という責務があります。やむを得ず、午後8時以降も営業している飲食店を責めることはできないのではないでしょうか」

Q.では、これまで、国や自治体の休業要請、時短要請に従っていた店が「イメージ悪化」や「金融機関・株主からの信用低下」といったリスクを承知の上で午後8時以降も営業した場合、コロナ禍で落ち込んだ経営を立て直すことはできるのでしょうか。

大庭さん「中小の飲食店の場合、売り上げの増大効果により、経営の立て直しを図れる事業者が増えることが想定されます。しかし、多くの飲食店が午後8時以降の営業にかじを切った場合、その分、競争が激しくなり、経営が悪化する店が出る可能性もあります。自粛を続けたい人や要請に従わない店を快く思わない人も相当数いるため、商圏全体でコロナ前の集客が見込めなくなるからです。

一方、不特定多数の株主が存在し、株式市場への上場を果たしている大手飲食店の場合、午後8時以降も営業を続けたとしても、中小の飲食店ほどの経営改善効果は得られないのではないでしょうか。法令を順守しないことに対して、株主からの理解が得られなかった場合、企業価値が低下し(株価の下落)、また、営業に必要な固定費負担も大きいため、商圏全体でコロナ前の集客が見込めない状況下では、財務面での改善効果が薄れるからです」

客が問題を起こした場合の対応は?

Q.8月9日未明、都内のカラオケ店で、酒に酔ったテレビ朝日の女性社員が窓から転落する事故があり、ネット上では批判が殺到しました。休業要請や時短要請を無視して営業を続けた際、客が何らかの問題を起こした場合、店側も「休業する」「時短営業に戻す」など何らかの対応をすべきなのでしょうか。

大庭さん「営業を行うにあたり、店側には客や従業員への安全配慮義務があります。営業により、クラスター感染が発生したことが明らかになった場合や、店の構造上の問題で客や従業員がけがをした場合など、客や従業員の安全に対する配慮が十分に履行できない状況となった場合は一度営業を停止し、原因を明らかにした上で、営業再開も含めた今後の対応を検討する必要があると考えます。

今回のようなケースの場合、普通に利用していれば、窓から転落することはないと明らかなのであれば、事故を理由に、すぐに営業を停止する必要はないと考えます。ただし、今後も、酩酊(めいてい)した客が誤って窓から転落する可能性があると考えられる場合は、転落防止対策を強化した上で、客への注意喚起を行うといった対策を施すのが望ましいでしょう。

また、周囲に休業や酒を提供しない店が多いことで、今後さらに利用客が増えることが予想され、クラスター感染や事故の発生が起こる可能性が高まると想定されるのであれば、営業時間や営業方法の変更を検討した方がよいのではないでしょうか」

Q.緊急事態宣言の対象地域で、もし、飲食店やカラオケ店などが経営上の理由などから、どうしても要請に従えず、営業を続ける場合、客や従業員への安全配慮義務を考慮した上で、どのような対策が求められるのでしょうか。

大庭さん「新型コロナウイルスに関しては、飲食店やカラオケ店などが感染拡大の温床であるというエビデンスはありませんが、接触・飛沫による感染がいつ起こってもおかしくはない状況にあるのは事実です。営業するのであれば、店側ができる最大限の感染防止対策を講じる必要があります。

潜伏期間中である無症状の感染者を見極めることは困難です。そこで、『テーブル上にアクリル板を設置する』『客席数を減らす』といった、感染者の飛沫が鼻や口の粘膜に付着することで発生する飛沫感染の防止対策や、『各テーブルに消毒液を設置する』『使い捨ておしぼりを定期的に交換する』など、ウイルスが付着した手指で鼻や口の粘膜に触れることで発生する接触感染の防止対策の徹底が、最低限必要なのではないでしょうか」

(オトナンサー編集部)

大庭真一郎(おおば・しんいちろう)

中小企業診断士、社会保険労務士

東京都出身。東京理科大学卒業後、企業勤務を経て、1995年4月に大庭経営労務相談所を設立。「支援企業のペースで共に行動を」をモットーに、関西地区を中心に企業に対する経営支援業務を展開。支援実績多数。以下のポリシーを持って、中堅・中小企業に対する支援を行っている。(1)相談企業の実情、特性に配慮した上で、相談企業のペースで改革を進めること(2)相談企業が主体的に実践できる環境をつくりながら、改革を進めること(3)従業員の理解や協力を得られるように改革を進めること(4)相談企業に対して、理論より行動重視という考えに基づき、レスポンスを早めること。大庭経営労務相談所(https://ooba-keieiroumu.jimdo.com/)。

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