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パラリンピックが燃えている! 菅総理も燃えている!

東京2020組織委員会、東京都、政府などによる4者協議が開催され、東京パラリンピックを全会場で無観客とすることが決定しました。一方で、コロナ感染拡大による中止の可能性はないのでしょうか。

結団式で秋篠宮さまから激励を受ける日本選手団ら(2021年8月、時事)
結団式で秋篠宮さまから激励を受ける日本選手団ら(2021年8月、時事)

 東京2020組織委員会、東京都、政府、国際パラリンピック委員会(IPC)による4者協議が8月16日に都内で行われ、東京パラリンピックについて全会場で無観客とすることが決定されました。新型コロナウイルスの新規感染者が激増しており、「中止議論はなかったか?」との質問に橋本会長は「中止の議論はなされなかった」ことを強調しました。

オリを実施した以上、パラ中止はない

 パラリンピックは、さまざまな障害を持つアスリートが能力を発揮する場です。ノーマライゼーションの理念に基づき、ぜひとも開催したいところです。一方で、コロナ感染拡大は予断を許さない状況が続いています。ビッグイベントの実施により、気持ちが緩み、人流増を誘発しているリスクについて専門家も指摘しています。

 筆者は40年にわたり、障害者支援活動を行っています。活動内容は、健常者と障害者が一堂に集まり、共同生活を行いながら、ボランティアスピリッツを育むというものです。1980年(国際障害者年)にスタートし、全国50カ所で行い、参加者の累計も2万人を超えています。開催のたびに地元選出の国会議員や行政、社会福祉団体からの参加もあります。また、開催のたびに多くの新聞社やテレビ局が訪れます。

 しかし、新型コロナの感染拡大により、ここ2年は開催していません。密になる環境が避けられないことや、障害の程度によっては、ワクチン接種をしていたとしてもリスクがあること、さらに、障害者保健が充実していない等の問題もあります。

 パラリンピックは8月24日~9月5日の日程で行われます。大会中、コロナの感染状況や対策、医療現場はどうなっているのでしょうか。現在、どのような動きがあるのか整理してみます。

 内閣官房参与の岡部信彦氏はテレビ朝日系のニュースで「一般医療にしわ寄せがいくような状況になれば、大会の中止も検討すべき」との考えを示しています。政権に近い岡部氏の発言は、中止のための世論形成を担っているようにも見えます。連立を組む公明党の山口代表も「慎重に見極めていかなければならない」と慎重な姿勢を崩しません。

 京都大学大学院医学研究科の西浦博教授は、このまま感染拡大が続いた場合、「『有観客』以前に開催にこぎつけることができるかどうか、非常に厳しい状況だと言わざるを得ません」と発言。政治学者の姜尚中氏も「中止することで初めて、国民はこれまでの宣言とは違うメッセージを与えられると思う」と指摘しています。

パラ中止は障害者差別なのか

 パラ中止の見解を示す人に、障害者を差別するような意図はないと考えています。パラスポーツやノーマライゼーションの理念を軽視しているわけではありません。

 しかし、本来であれば、五輪を1年延期した際に「開催基準」について策定すべきだったように思います。誰もが納得するような基準に照射した上での「開催・中止」であれば、合意も取りやすかったでしょう。そうした判断基準なしにパラ中止となれば、障害者を軽視しているという意見が噴出したとしても、やむを得ないことです。

 では、最終的な落としどころはどうなるのか。筆者は感染拡大に歯止めがかからない場合、中止になる可能性が高いと考えています。オリと違い、パラの放映権料は高くありません。IOCもオリの開催には死に物狂いになり突き進みましたが、すでに目的を達成した以上、「是が非でも開催」という流れにはならないでしょう。

 8月17日に緊急事態宣言の追加発令もされました。今週(15日~21日)の数値次第ではないかと思います。あわせて、世論の動向を見ながら、急転直下の中止もあり得ると予想しています。今は「感染防止などのリスクを勘案しながら中止する」という合理的な判断がしやすい状況といえるからです。

 世論が「パラ中止もやむを得ない」というムーブメントになり、菅総理がパラ中止の英断を下すというシチュエーションも予想できます。事実、その方が政権にとってもダメージは少ないと言えるでしょう。

 作家の乙武洋匡氏はニュースサイトSAKISIRU(2021年08月04日)の取材インタビューで次のように答えています(https://sakisiru.jp/7376)。

「日本の教育現場では『分離教育』という制度が取られ、障害のある子とない子が別々に教育を受ける環境が続いてきた。そのため、障害者と接した経験のある人が先進国のなかでもとりわけ少なく、どう接していいのか戸惑ってしまう人が非常に多い。だからこそ、パラリンピックは障害者を身近な存在として感じられる良い機会になると思います」

「マラソンで男女を分けたり、柔道で体重ごとに階級を分けるように、一つの大会で健常の部や車椅子の部など分けて競技したら良いと思います」(原文ママ)

 乙武氏の、オリ、パラを分ける必要はないとの指摘は今後、検討すべき示唆ではないかと思います。筆者も、オリパラ同時開催はノーマライゼーションの理解や浸透を深めるよい機会だと考えています。

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尾藤克之(びとう・かつゆき)

コラムニスト、著述家 尾藤克之

コラムニスト、著述家。
議員秘書、コンサル、IT系上場企業等の役員を経て、現在は障害者支援団体の「アスカ王国」を運営。複数のニュースサイトに投稿。代表作として『頭がいい人の読書術』(すばる舎)など21冊。アメーバブログ「コラム秘伝のタレ」も絶賛公開中。

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