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坂道シリーズに受け継がれる「個人PV」 映像制作がグループにもたらすものとは

グループが成長する糧に

 さて、重要なのはこの表現形態がその場限りの散発的な企画に終わるのではなく、歴史を紡ぐことでグループ内のクリエーティブを洗練させ、同時に、演者や映像作家、関わるスタッフにも表現の発展をもたらすことです。

 演者に関しては、先の伊藤さんを例にとれば、種々のショートドラマやダンスなどに活路を見いだした彼女は個人PVという企画全体を代表するパフォーマーとなりました。以後、個人としてさまざまな場に起用される際にも、個人PVで見せたいくつもの適性は生かされています。

 また、自由度の高い映像制作の場でもある個人PVは乃木坂46が映像作家を発掘し、グループの糧とする回路にもなりました。草創期こそ、堤幸彦さんや三木聡さん、手塚眞さんらすでに著名でキャリアの長い映像作家を招くことが一つのフックにもなっていましたが、以降は、この企画を通して相性の良さをみせた新進作家が後に楽曲のMVなども手掛け、統一感のあるクリエーションをグループにもたらしています。柳沢翔さんや山岸聖太さん、湯浅弘章さんらをはじめとする作家がその代表例でしょう。

 平素の音楽番組やバラエティーなどでは、性質上、フィーチャーされることはさほど多くありませんが、これら個人PVを介した映像制作もまた、グループにとって最も基幹的、かつ継続的な活動と言えます。

 そしてまた、表現の振り幅が極めて広いこの企画に触れるとき、多様なベクトルのクリエーティブをのみ込み、ジャンルを越境することのできる媒介として、「アイドル」という存在があることも確認できるはずです。

(ライター 香月孝史)

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香月孝史(かつき・たかし)

ライター

1980年生まれ。ポピュラー文化を中心にライティング・批評やインタビューを手がける。著書に「乃木坂46のドラマトゥルギー 演じる身体/フィクション/静かな成熟」「『アイドル』の読み方 混乱する『語り』を問う」(ともに青弓社)、共著に「社会学用語図鑑 人物と用語でたどる社会学の全体像」(プレジデント社)、執筆媒体に「RealSound」など。

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