観客多くない映画を「大ヒット上映中」と宣伝、法的問題はない?
観客がそれほど入っていない映画を「大ヒット上映中」と宣伝した場合、法的に問題となるのでしょうか。

テレビCMや雑誌の広告などで、映画の宣伝を目にする機会がありますが、「大ヒット上映中」「絶賛上映中」といったキャッチコピーがよく使われています。中には、映画の上映初日に「大ヒット上映中」と宣伝しているケースもあり、違和感を覚える人も多いのではないでしょうか。
もし、観客がそれほど入っていない映画を「大ヒット上映中」など、あたかも多くの観客が入っているかのように宣伝した場合、法的に問題となるのでしょうか。外海法律事務所(東京都千代田区)の外海周二弁護士に聞きました。
優良誤認表示なら行政処分
Q.映画の宣伝で、法的に問題となる可能性があるケースについて教えてください。
外海さん「商品やサービスの宣伝の際、実際よりもよく見せるような表現を使うことで消費者に誤解を与えた場合、景品表示法(正式名称『不当景品類および不当表示防止法』)違反に該当する可能性があります。景品表示法とは、過大な景品類の提供を防ぐために景品類の最高額を制限するとともに、商品やサービスの品質、内容、価格などを偽って表示することを規制する法律です。
例えば、客観的な事実がないにもかかわらず、『興行収入1位』『○○賞にノミネート』『著名映画評論家の○○氏が今年一番の映画であるとコメントした』と、明らかに真実に反する虚偽内容を広告に記載し、消費者に対して、実際より優良な商品やサービスであると誤認させた場合、優良誤認表示(5条1号)として『措置命令(是正措置を求めること)』や『課徴金』などの行政処分の対象となります」
Q.では、観客がそれほど入っていない映画を「大ヒット上映中」「絶賛上映中」など、あたかも多くの観客が入っているかのように宣伝した場合、景品表示法の優良誤認表示に該当するのでしょうか。
外海さん「何をもって『大ヒット』『絶賛』といえるのかが曖昧なため、『優良なものと誤認される表現である』と明確にいえるかが問題となります。『大ヒット』という表現は一般的には、観客動員数や興行収入といった数字的な裏付けがあるものと考えられやすいため、客席が明らかにガラガラであるにもかかわらず、『大ヒット』と言い切ってしまうと、問題があるといえるでしょう。
もっとも、映画の宣伝においては、『大ヒット上映中』といった表現は数字的な根拠もなく、いわば枕ことばのように使われることも多いため、このような表現を見た消費者が直ちに『興行収入的にも本当にヒットしている』と誤認するかといえば、そうでもないという見方もできます。『絶賛上映中』という表現であれば、なおさら、『現在、映画館で上映中であることを何となく印象のよい修飾語で表現しているだけ』と受け取られることが多いと思われるので、この場合には優良誤認表示とはいえないと考えてよいでしょう。
結局、優良誤認といえるかどうかは、一般人の目から見て『だまされた!』と思えるような表現であるかどうかが基準になります。先述した『興行収入1位』『○○賞にノミネート』といった、真実に反していることが客観的に明らかなものと比べると、『大ヒット上映中』『絶賛上映中』のように、人によって解釈が異なる抽象的な表現であればあるほど、消費者庁から行政処分がなされる可能性は低いと考えてよいでしょう。
このほか、映画の宣伝のときによく使われる『全米が震撼(しんかん)した』『衝撃のラスト』といったキャッチコピーについても、実際にアンケートなどで調査した結果ではないことが推測できる抽象的な表現にとどまっているため、優良誤認表示とまではいえないと思います」
Q.新型コロナウイルスの感染対策で客席数を減らしている映画館が多い状況の中、上映初日ですでに「大ヒット上映中」と宣伝するケースもありますが、問題はないのでしょうか。
外海さん「上映初日であれば、その映画が大ヒットしているかどうかの数字的なデータがまだ存在していないので、『大ヒット』という事実が存在していないことが明らかだといえます。その意味では、上映初日でこのように表現するのは問題であると考えられます。
一方、消費者の目からは、まだ大ヒットかどうかが分からない段階で言っていることが容易に想像できるため、『単なる枕ことば、宣伝文句の一つとして使われているにすぎない』と見られやすいともいえ、『実際に消費者がどこまで誤認しているのか』という観点で取り締まるべきかどうか微妙なところです」
Q.恋愛映画だと宣伝したものの、実際にはホラー映画のように衝撃的なシーンが多い映画だった場合、鑑賞した人の中にはがっかりする人もいるかと思います。この場合、法的に問題となるのでしょうか。
外海さん「宣伝内容と映画の内容が全く違っていた場合、理論的には詐欺に該当する可能性があります。事実と全く異なる宣伝により、『もし、本当のことを知っていれば見に行かなかっただろう』といえる場合、詐欺として料金の返還を求めることができる可能性がありますが、宣伝における映画ジャンルの表現が微妙にズレている程度のものであれば、詐欺とまではいえないケースの方が多いと思われます」
Q.医薬品や健康食品の広告に比べると、映画の宣伝は誇張表現が比較的許されている印象がありますが、なぜなのでしょうか。
外海さん「医薬品や食品の広告に関しては、景品表示法とは別に『薬機法(旧薬事法)』『健康増進法』といった法律で、虚偽・誇大広告などが禁じられています。これらの法律では、含有成分や効能などに関して虚偽の内容や誇大広告を行うことが禁じられており、含有成分に関して事実に反する表示はもちろん、効能についても『最高』『一番』といった最上級、またはこれに類する表現を使うことも禁じられています。
医薬品や食品の広告表現に厳しい規制が設けられている一番の理由は、人体に入ることで安全・健康に直結するためです。これに対し、映画の宣伝は、仮に『広告にだまされた』と感じた場合でも大きな損害があるわけではありませんし、何より、映画の良しあしは人によって感じ方が全く違うため、広告の内容にかかわらず、期待外れだったり、思いのほか面白かったりしたことは誰にでも普通にあると思います。
従って、多くの人は映画の宣伝をそれほど真に受けておらず、仮に『誇大広告ではないか』と思えるような表現があっても、それほど気にしないのではないでしょうか」
Q.映画の宣伝に関して事件になった事例、裁判になった事例はありますか。
外海さん「映画の宣伝が誇大広告であるとして、消費者が映画会社を訴えたというケースは聞いたことがありません。仮に訴えたとしても、先述のように、抽象的な宣伝文句が詐欺と認められる可能性は低く、損害賠償請求が認められる余地はあまりないでしょう。また、映画の宣伝が消費者庁により、景品表示法違反とされた事例も聞いたことがありません」
(オトナンサー編集部)
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