オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

「アシガール」「光源氏くん」…NHKのタイムスリップドラマが成功する理由

タイムスリップがもたらす可能性

 また、NHKには民放にはない強みもあります。それはCMが入らないということ。タイムスリップドラマは少なくとも2つの時代が出てくるため、見る側にもそれなりの集中が必要です。ところが、途中でCMが入ると過去でも未来でもない「今どき」の世界が急に飛び込んできます。その点、NHKなら、映画を見るようなスタンスで集中しやすいわけです。

 なお、これはタイムスリップドラマ全体に言えますが、人間の感情や性格の変化を描きやすいというのも利点です。違う時代に行き、別の価値観に出会えば、生き方だって変わります。それゆえ、自分探し的なテーマを描くのにも向いています。

 さらに、タイムスリップによる歴史改変やパラレルワールドの出現といった「小道具」も使えます。そのあたりを見事に生かしたのが、大ヒットアニメ「魔法少女まどか☆マギカ」です。主人公・鹿目まどかを救いたい一心で、タイムスリップを繰り返す暁美ほむら。その超常的な行動が世界を幾重にも更新し、彼女自身や主人公を変えて、思いがけない展開を生むわけです。

「いいね!光源氏くん」においても、またしかり。なにせ、プレーボーイだった光源氏がちょっと純愛志向になったりします。一方、ヒロインの沙織も地味で陰キャ気味だったのが、明るく前向きになります。

 しかも、その変化は演じる側にももたらされます。昨年の第1回直前「まるごと紹介 いいね!光源氏くん」(NHK総合)でのこと。「立ち位置として、ヒロインみたいなことをあまりやってこなかった」という伊藤さんは「ちょっと大丈夫かなっていうのはありましたね、正直」と告白しつつ、「沙織自身が自分は脇役人生と思ってる子だったからなおさらよかった、常に堂々としてるような女性じゃないので、共感しつつ、一緒に向かっていけた」と明かしていました。

 光源氏とは対照的だからこそ、彼を変え、自分も変わることができるヒロインの役は、まさにハマり役です。彼女にとって、新たな引き出しを見せることができる作品と言えます。

 というように、別世界への劇的な移動が描かれるタイムスリップものでは、さまざまな可能性が模索できます。それは演じる側のイメージを変化させたり、意外な発見をもたらすのです。ちなみに、昨年は全8回でしたが、今回の「し~ずん2」は全4回。6月21日の第3回と28日の最終回でどんな、もしもやまさかが見られるか、大いに楽しみです。

(作家・芸能評論家 宝泉薫)

1 2

宝泉薫(ほうせん・かおる)

作家、芸能評論家

1964年岐阜県生まれ。岩手県在住。早大除籍後「よい子の歌謡曲」「週刊明星」「宝島30」「噂の真相」「サイゾー」などに執筆する。近著に「平成の死 追悼は生きる糧」(KKベストセラーズ)、「平成『一発屋』見聞録」(言視舎)、「あのアイドルがなぜヌードに」(文春ムック)など。

コメント