「アシガール」「光源氏くん」…NHKのタイムスリップドラマが成功する理由
「タイム・トラベラー」「アシガール」「いいね!光源氏くん」など多くのタイムスリップドラマを制作しているNHK。成功の理由とその魅力に筆者が迫ります。

NHK総合の「よるドラ」枠で「いいね!光源氏くん し~ずん2」(毎週月曜 後10:45)が放送中です。タイトルからも分かるように、今回が第2弾。昨年の「いいね!光源氏くん」(NHK総合)同様、えすとえむさんの漫画が原作で、千葉雄大さんが主演、伊藤沙莉さんがヒロインを務めています。
ストーリーは、1000年前に書かれた「源氏物語」の主人公・光源氏が現代にタイムスリップして、普通のOLと恋に落ちるというもの。日本のフィクション史上最強のプレーボーイとヒロインが育んでいく恋模様が時におかしく、時に切なく描かれます。
タイムスリップドラマの老舗
そんなタイムスリップものの傑作といえば「アシガール」シリーズ(同)があります。2017年に連ドラ、翌年にスペシャルドラマが放送されましたが、今年1月に発表された「300人に聞いた!タイムスリップ作品で好きなドラマ 人気ランキング ベスト10!」(TVマガ )でも、第1位に輝いています。
こちらは、黒島結菜さん扮(ふん)する現代の女子高生が戦国時代にタイムスリップ。伊藤健太郎さん扮する大名の若君に一目ぼれして、今の時代と行ったり来たりしながら、純愛を成就させていきます。
黒島さんは今年3月に放送された単発ドラマ「流れ星」(NHKBSプレミアム)でも、ヒロインとともに高度経済成長期の日本にタイムスリップする魔法使いを演じました。彼女自身、こういう設定がよく似合う「時をかける女優」なのですが、実はNHKもこうしたタイムスリップものが好きだったりします。
2009年から2015年にかけては、時代考証にこだわったドキュメントタッチのドラマ「タイムスクープハンター」(NHK総合)が高い評価を受けました。そんなNHKはタイムスリップドラマの老舗でもあるのです。
1972年、「少年ドラマシリーズ」の第1作として放送された「タイム・トラベラー」(同)が子どもから高校生くらいの世代を中心にヒット。原作は筒井康隆さんの小説「時をかける少女」です。
このシリーズはNHKが約12年間、平日や土曜の夕方に放送。さまざまなジャンルのドラマが作られ、中でもSF系の作品は高い人気を博しました。特にタイムスリップものについては「タイム・トラベラー」が映画やドラマ、アニメの「時をかける少女」につながった他、「未来からの挑戦」(同)が角川映画の「ねらわれた学園」となったり、「幕末未来人」(同)が「幕末高校生」(フジテレビ系)になったりと、後続作品に大きな影響を与えたものです。
1985年に出版された「東京おとなクラブ」5号(特集 タイム・トラベラーとNHK少年ドラマシリーズ)によれば、「タイム・トラベラー」の反響はすさまじく、演出家いわく、「休みが明けて出て来たら、机の上が投書の山」だったそうです。
また、メイン企画の座談会では、後にコミケ(コミックマーケット)の代表として知られることになる評論家・米沢嘉博さんが「少年ドラマシリーズ」について、「家に帰るってのは、これを見るために帰るってことでしたね」と語っていました。
映画監督・小中和哉さんの演出
そんな伝説的シリーズをリスペクトしている一人が映画監督・小中和哉さんです。このシリーズへのオマージュである、パラレルワールドものの映画「星空のむこうの国」でデビュー。2010年にはシリーズ後期の傑作として知られる、タイムスリップ&超能力ものの「七瀬ふたたび」を映画にしました。
そして、現在は「いいね!光源氏くん」の演出を手掛けています。そのためか、このドラマには「少年ドラマシリーズ」に通じる精神を感じるのです。例えば、小中さんはSF的設定について、あくまで「人間ドラマを描くための道具立て」だという意味の発言をしています。
これと同じことを前出の「東京おとなクラブ」において、「少年ドラマシリーズ」のプロデューサーが語っていました。それは「純愛ドラマをやりたかった」から、「SFを小道具にしてやれ」と考えたというもの。「現代人とは一緒になれないという“かせ”の中で純愛物語をやろうとした」というわけです。
もちろん、こうした発想はNHKだけのものではないでしょう。ただ、その流れを作り、守り続けてきたところに、NHKのタイムスリップドラマの安定した魅力がある気がします。
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