企業が「SDGs」を強化する理由は? コロナ禍で経営面に影響しない?
最近話題の「SDGs」ですが、企業が取り組みを強化するのはなぜでしょうか。コロナ禍で熱心に取り組むことで、経営面のリスクはないのでしょうか。

近年、「SDGs(エス・ディー・ジーズ)」という言葉をよく耳にするようになりました。これは2015年、193カ国の代表が集まった「国連持続可能な開発サミット」で採択された「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称で、2030年までに達成するために掲げられた目標です。「貧困をなくそう」「気候変動に具体的な対策を」など大きく分けて17の目標が設定されており、多くの企業がこの目標に基づいた経営計画を立てるようになりました。
しかし、貧困問題や環境問題をはじめ、課題解決には多大な時間とコストがかかるため、「SDGs達成」と「利益向上」を両立させるのは難しいように思えます。また、新型コロナウイルスの影響で経営が悪化した企業が続出しており、「SDGsどころではない」というのが本音ではないのでしょうか。そもそもなぜ、企業はSDGsへの取り組みを強化するのでしょうか。コロナ禍でSDGsに熱心に取り組んでも、企業経営の面で問題はないのでしょうか。
経営コンサルタントの大庭真一郎さんに聞きました。
ステークホルダーの信頼
Q.SDGsに基づいた経営計画を立てる企業が増えています。企業はなぜ、SDGsに熱心に取り組むのでしょうか。
大庭さん「SDGsの達成に取り組むことで企業イメージが向上するためです。そもそも、企業が成長するためには取引先や金融機関、地域社会、従業員、株主といったステークホルダー(利害関係者)からの信頼を得る必要があります。周囲からの信頼が得られないと、事業を拡大し続けることが難しくなるからです。
ステークホルダーからの信頼を得るのに効果的なのが、CSR(企業の社会的責任)に関する活動です。自社の利害だけを考えるのではなく、社会的な課題の解決に対して積極的に取り組む姿勢を示すことで企業イメージを向上させるのです。それに関する主要な活動として『地域社会や環境への貢献』があります。
SDGsは世界共通の価値観であるため、積極的に取り組むことでCSRと同様の効果が得られます。また、SDGsは『貧困をなくそう』『気候変動に具体的な対策を』『ジェンダー平等を実現しよう』など社会的な課題に関する目標があらかじめ定められているため、CSRに関する取り組みを推進しようとする企業にとって方向性を定めやすくなります。そのため、SDGsに熱心に取り組む企業が増えてきているのです」
Q.では、もし、企業がSDGsにあまり熱心に取り組まなかった場合、どのような事態が想定されるのでしょうか。
大庭さん「SDGsへの取り組みはあくまで、企業イメージを向上させるための戦略の一つにすぎないので、取り組まないこと自体が自社の経営上のリスクに直結することはありません。ただし、取引先などがSDGsに熱心に取り組んでいた場合、自社の経営に影響を及ぼすことはあり得ます。
例えば、主要な取引先がSDGsへの取り組みを強化している場合、それに則した形で仕様や取引形態などの変更を求めてくることが想定されます。その際に自社が対応できなかった場合、関係性が弱まり、取引の減少や終了を招いてしまうことが考えられます。
また、競合他社がSDGsへの取り組みを強化していた場合、ビジネスユーザーや消費者からの信用が競合他社に流れることで、市場内での競争力が低下してしまうことも考えられます。企業にとって、SDGsはもはや無視できない存在なのではないでしょうか」
Q.オフィス街では、SDGsのピンバッジを着けて歩いているサラリーマンを見かけることがあります。バッジを着けることで周囲にどのような効果をもたらすのでしょうか。
大庭さん「バッジを着けることで、会社がSDGsに取り組んでいることを対外的にアピールでき、企業イメージの向上につながります。先述の通り、SDGsに取り組む目的はステークホルダーからの信頼を獲得し、企業イメージを向上させることにあるため、バッジを着けた従業員が広告塔の役目を果たします。
また、SDGsに取り組んでいることを目に見える形で表すことで、同じようにSDGsに取り組んでいる取引先や団体、個人との間で一体感が生まれ、関係が強化されます。それにより、新たなビジネスのきっかけが生まれることがあるのです。
また、従業員がバッジを着けることは社内にもよい影響を与えます。従業員のSDGsに対する意識が向上し、社内でSDGsに真剣に取り組もうという雰囲気がつくられます。その結果、会社としてのSDGsへの取り組みに関する推進力が向上します。また、社内全体で取り組む雰囲気になれば、途中で投げ出すことによる企業イメージの低下を避けられます」
Q.企業によっては、SDGsの取り組みに多大なコストがかかることもあります。そんな中で利益を確保しつつ、目標を達成することはできるのでしょうか。
大庭さん「確かに、SDGsへの取り組みに対しては相応のコストが発生します。短期的な視点で考えた場合、企業の利益を押し下げ、マイナス効果を発生させてしまうようにも見えます。しかし、中長期的な視点で考えた場合、企業イメージの向上が企業としてのブランドや信用の向上につながり、そのことが優秀な人材の確保や資金調達などの面で優位に働き、経営が安定すると見ることもできます。
本来、企業は短期的な目標と中長期的な目標を同時に立てるため、SDGsへの取り組みは企業としての成長につながる中長期的な目標を達成するための投資であると考えることができます」
Q.新型コロナウイルスの影響で多くの企業の経営が悪化しています。この場合、SDGsに関する取り組みを一時的に停止して、自社の利益確保に努めるべきなのでしょうか。
大庭さん「コロナ禍で収益が著しく悪化し、企業としての存続が危ぶまれる状況にあるのであれば、生き残るために目先の利益を優先する必要があります。その場合、SDGsに関する取り組みを一時的に停止する判断があっても仕方がありません。
ただし、現状の危機を乗り越えた後、改めて、企業として成長していくための道筋を描かなくてはなりません。その場合の有力な選択肢の一つとして、SDGsへの取り組みが存在するのだと私は思います。新型コロナウイルスが収束した後は社会全体で経済の立て直しに取り組む必要があり、SDGsによる社会への貢献活動は社会全体から歓迎されることだからです」
Q.企業がSDGsへの取り組みをする際に気を付けるべきことはありますか。
大庭さん「『世の中でブームになっているから』といった軽い気持ちでSDGsに取り組んだ場合、失敗することは容易に想像できます。例えば、会社が働きがいのある職場にするために、SDGsの目標の一つである『働きがいも経済成長も』に基づいた活動に取り組むと宣言しておきながら、従業員の労働環境を悪化させた場合、従業員からの信用が失墜し、優秀な人材の流出を招くことがあると思います。
また、人々の健康改善を推進するために、SDGsの目標の一つである『すべての人に健康と福祉を』に基づいた活動に取り組むと宣言した企業で、SDGsのバッジを着けた従業員が健康改善に反するような行為を働いた場合、世間からの信用が失墜し、企業イメージが悪化すると思います。SDGsに取り組むのであれば、中長期的な企業イメージ向上につながるビジョンを描いた上で従業員と共有し、また、一体化した行動が取れるように従業員を教育する必要があるのです」
(オトナンサー編集部)
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