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白石麻衣、卒業 アイドルの可能性示し、メンバーの関係性築いた軌跡

卒業、その先にある新たなキャリアへ

 そして、先日、10月28日の卒業ライブでも目を引いたのは、主役である白石さんの存在のみを強調するのではなく、メンバーとの慈しみ合いを引き立てるようなライブ運びやグループ全体の振る舞いでした。

 生田絵梨花さんや松村沙友理さんをはじめとする、結成以来の同志である1期メンバーから、グループの未来を担う4期メンバーまで、白石さんはそれぞれと肩を並べてパフォーマンスする瞬間をつくり、乃木坂46という場をめでるような時間をつくっていました。

 多人数グループにおいては、メンバー間の関係性がさまざまにファンに受容され、それ自体が大きなコンテンツにもなっています。こうした関係性のアウトプットは時に、他者への思慕の感情が決してシンプルではなく、また、恋愛や友情などよくある簡潔な言葉だけに還元できない、複雑かつ雄弁なものであることを受け手に伝えます。

 乃木坂46の場合、2019年のドキュメンタリー映画「いつのまにか、ここにいる Documentary of 乃木坂46」でも顕著だったように、とりわけ、互いへの愛着を静かに確認し合うような繊細な関わり合いや思慕の感情が、グループ全体の営みを通じて表現されてきました。白石さんの卒業ライブはその意味で、まさに乃木坂46という共同体が持つ基調を存分に発信するものだったといえます。

 個々人のキャリアへの道を開くための“外向き”のアイコンとして、そして、メンバー間の慈しみ合いの起点として。白石麻衣とは、その双方で大きな役割を果たし続けてきた人でした。

 そして、ここから先に個人として描いていくキャリアもまた、本人にとって重要な歩みであると同時に、後進のメンバーたちの道を照らすものになっていくはずです。

(ライター 香月孝史)

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香月孝史(かつき・たかし)

ライター

1980年生まれ。ポピュラー文化を中心にライティング・批評やインタビューを手がける。著書に「乃木坂46のドラマトゥルギー 演じる身体/フィクション/静かな成熟」「『アイドル』の読み方 混乱する『語り』を問う」(ともに青弓社)、共著に「社会学用語図鑑 人物と用語でたどる社会学の全体像」(プレジデント社)、執筆媒体に「RealSound」など。

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