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変化する「乃木坂46」 成熟したアイドルの先にある、新たな“組織体”の可能性

俳優輩出組織としての機能

 付け加えれば、多人数のアイドルグループにとって、群像劇としての側面が大きな訴求力となることは常ですが、乃木坂46の群像において受け手に支持されているのは、どこまでもメンバー相互の愛着や慈しみが表現されるような瞬間です。

 それが象徴的に切り取られた作品の一つが、今年7月に公開され、12月25日にソフト化されたばかりのドキュメンタリー映画「いつのまにか、ここにいる Documentary of 乃木坂46」でした。

 つまり、特定の試練や恣意(しい)的な競争的環境に苦闘する姿が呼び物となるのではなく、乃木坂46というグループ内に見いだされるささやかな敬意の表れといった日常的、かつ静的な一コマの尊さにこそ支持が集まっています。

 これもまた「自然な成熟」と同じく、一見すれば分かりやすい特徴ではないかもしれません。しかし、そうした基調を持つグループが今日、最も広く人気を集めていることは、女性グループの何が支持され、何が受容されているかということを把握する大きな手掛かりかもしれません。

 また、長いキャリアの蓄積はグループ全体だけでなく、個々のメンバーレベルでも新たなフェーズを生んでいます。特に注目すべきは、乃木坂46が現在、俳優を輩出する組織として機能し始めた点です。

 とりわけ、2019年は帝国劇場をはじめとする東宝製作のミュージカルに現役メンバー、および卒業メンバーが相次いで主要キャストとして出演しています。乃木坂46がデビュー以来、重きを置いてきた舞台演劇への取り組みが、一つ先の段階へと進化した様子がうかがえます。

 興味深いのは、そのようにして次のステップを踏んでいくメンバーについて、乃木坂46という組織が新たな枠組みを構想しようとしている点です。

 多人数アイドルグループにとってメンバーの“卒業”はルーティン的に生じるものですが、近年の乃木坂46は少なからぬ卒業メンバーを「乃木坂46合同会社」の所属タレントとして組織の中に位置付け、個々人のキャリアマネジメントを担う流れを作っています。

 これはいわば、「乃木坂46」をアイドルグループの名義としてだけではなく、グループ活動から離れ、別のステージで活動する卒業メンバーたちも包摂する組織体、コミュニティーの名義としても捉えることで、ブランドの形を再定義するような未来を思わせます。

 繰り返しになりますが、乃木坂46はアイドルとして「ごく自然に成熟してゆく姿」を体現し、メンバー相互の愛着や敬意が発露する瞬間にこそ支持が集まるグループです。また、2019年は西野七瀬さんの卒業コンサートを開催し、最初期からキャプテンを務めてきた桜井玲香さんも卒業するなど、メンバーの循環を強く感じさせる年でもありました。

 だからこそ、その組織が、さらに広くメンバーたちのライフスパンを見据えたマネジメントを行い、そのためにどのようなホームを創造できるのか注目に値します。とりわけ、若年期の刹那に関心が集中しがちな「アイドル」というジャンルとそのキャリアについて、静かな問い直しの機会になるのかもしれません。

(ライター 香月孝史)

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香月孝史(かつき・たかし)

ライター

1980年生まれ。ポピュラー文化を中心にライティング・批評やインタビューを手がける。著書に「乃木坂46のドラマトゥルギー 演じる身体/フィクション/静かな成熟」「『アイドル』の読み方 混乱する『語り』を問う」(ともに青弓社)、共著に「社会学用語図鑑 人物と用語でたどる社会学の全体像」(プレジデント社)、執筆媒体に「RealSound」など。

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