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松本人志が「不良品」発言で伝えたかったことは何なのか

犯罪は人災であると同時に“天災”

 だから、犯罪というのは、人災であると同時に天災のような理不尽なものでもあるのです。何万人に1人の確率で、私たちの社会にはとんでもない犯罪者が出てきてしまう。そこには、いかなる特定の理由もない。だから、原理的には避けることができない。これは、確率統計的な真実です。

 そして、身もふたもない残酷な真理だからこそ、マスコミなどでは、このような主張が語られることはありません。犯罪の被害に遭った人に対して、「あなたは何の理由もなく、たまたま被害に遭ってしまったんですよ」というのは、真理ではあるかもしれませんが、道徳的に正しくないことだとされているからです。

 松本さんは、一定の確率で“不良品”が出てきてしまう、この社会の理不尽さを嘆いているのだと思います。そして、嘆くだけではなく、私たちにできることがあるとすれば、そのような犯罪者が出てくる確率を少しでも減らすことくらいだろうと言っているのです。これ自体はまっとうな主張であり、特にたたかれるようなことではないと筆者は思います。

「生まれながらにして出来損ないの人間がいる」という考え方は、明らかに今日の社会では許されません。“不良品”という言葉は、そのような連想を引き起こしやすく、誤解の余地のある言葉ではありますが、松本さんは「生まれながらの不良品が存在する」と言っているわけではなく、「凶悪な犯罪を起こしてしまった人に対して、『不良品』と呼びたくなってしまうくらい理不尽さと怒りを感じる」と言っているのだと思います。

 実際、番組内でも、松本さんのこの発言を受けてジャーナリストの堀潤さんが「計画的なテロなどと違って、突発的な凶悪犯罪を未然に防ぐのは難しい」という話をしていました。「一定の確率で理不尽な凶悪犯罪が起こってしまう」という松本さんの発言の趣旨を理解した上での反応だと思われます。

 ちなみに、筆者自身は、何が何でも松本さんのひいきをしたいわけではありません。松本さんが過去に言っていたことで違和感を持ったり、自分の考えとは違うと思ったりしたこともあります。ただ、今回の件に関しては、松本さんの言いたいことが十分にくみ取られていないと感じただけです。

 太田光と松本人志という、トップクラスの芸人が自分の言葉で世相を語る「サンデージャポン」「ワイドナショー」は、それぞれに魅力のある番組だと思います。

(お笑い評論家 ラリー遠田)

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ラリー遠田(らりー・とおだ)

作家・ライター/お笑い評論家

1979年名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ、お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。「教養としての平成お笑い史」(ディスカヴァー携書)「とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論」(イースト新書)など著書多数。

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