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くっきー、ガンバレルーヤよしこ…似ているを超越した「強引ものまね」に走る芸人たち

野性爆弾・くっきーさん、ガンバレルーヤ・よしこさんら、本人に似ていないのに強引に押し通す「強引ものまね」を芸とするお笑いタレントが増えています。

(左から)野性爆弾・くっきーさん(2018年12月、時事)、ガンバレルーヤ・よしこさん(同11月、時事通信フォト)
(左から)野性爆弾・くっきーさん(2018年12月、時事)、ガンバレルーヤ・よしこさん(同11月、時事通信フォト)

 お笑いの世界で、ある程度の成功を収めるのは大変なことです。時代によって求められるネタやキャラクターも変わってくるため、芸人たちは臨機応変に大衆のニーズに合った芸を磨く必要があります。

 ただ「ものまね」だけは、はやり廃りの影響を受けにくい芸だと言われています。振り返ってみれば、お笑いが流行していた時代も、そうではない時代も、ものまねには一定のニーズがあり、毎年のように新たなものまね芸人が出てきています。

 最近では、ものまねを専門にしていない芸人が、ものまねをきっかけに注目を集めるというケースも増えてきました。チョコレートプラネットはその典型例です。IKKOさんと和泉元彌さんのものまねで人気に火がつき、数多くのバラエティー番組に出演しています。ものまねは、芸人が1つ上のステージに上がるための起爆剤の役割を果たすことがあるのです。

「ものまねだ」と言い切る芸

 そんな中、最近にわかに脚光を浴びているのが、芸人の演じる「強引ものまね」です。ものまねというのは、本物そっくりに似せることが基本ですが、そのセオリーを外れて、強引に「ものまねだ」と言い切ってしまうような芸が、さまざまな形で見られるようになっています。

 例えば、野性爆弾のくっきーさんは「白塗りものまね」で注目されました。自らの顔面を真っ白に塗り、その上に絵を描くようにして有名人の顔を再現するという、アーティスト気質のくっきーさんらしいネタです。インスタグラムで公開した画像は大反響を呼び、くっきーさんのブレークにつながりました。

 業界内で圧倒的に評価が高いのは、ハリウッドザコシショウさんの「誇張ものまね」。さまざまな有名人のものまねを力いっぱい誇張して演じてみせるのです。デフォルメが激し過ぎて、ほとんど原型をとどめていないものが多く、その強引さが笑いを誘います。

 また、すっかりお茶の間の人気者になったガンバレルーヤのよしこさんも、女優などの「なりきりものまね」を得意としています。「小雪です」「多部未華子です」などと言い切り、表情を作ります。ただそれだけなのですが、「似てないよ」と正論を言うのがばかばかしくなるほど、彼女の真剣な目つきがたまらなく面白いのです。

バラエティー番組で扱われやすい

 これらは全て、「似ている」「似ていない」の評価を超えているという意味で、正統派ものまねの進化形だと言えます。ものまねを専門にしていない芸人がこのような芸をするのは、彼らにとって、ものまねは主軸となる芸ではないからでしょう。似ているかどうかにこだわることなく、発想を自由に膨らませ遊ぶことができるのです。

 そして、ある程度は隙のある芸の方が、バラエティー番組で披露したときに扱いやすいという利点もあります。よしこさんが小雪さんのものまねを披露すれば、すかさず司会の芸人が「全然似てねえよ!」などとツッコむことができます。バラエティー番組の流れの中では、きちんと似ているだけのものまねよりも、むしろ「強引ものまね」の方が扱いやすいということがあるのです。

「強引ものまね」に必要なのは、それで押し切る勇気だけです。飛躍するきっかけを得るために「強引ものまね」をする芸人は、これからもどんどん出てくることでしょう。

(お笑い評論家 ラリー遠田)

ラリー遠田(らりー・とおだ)

作家・ライター/お笑い評論家

1979年名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ、お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。「教養としての平成お笑い史」(ディスカヴァー携書)「とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論」(イースト新書)など著書多数。

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