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ナイツ塙ベストセラー本も! 芸人たちが、かつて忌避した「お笑い語り」を始めた理由

お笑い芸人の間で、かつては忌避されていた「お笑い語り」ですが、ナイツの塙宣之さんらが堂々と、お笑いについて語り始めました。

ナイツ(2019年7月、時事)
ナイツ(2019年7月、時事)

 お笑い界では昔から「芸人は笑いについて、人前であれこれ語るものではない」という風潮がありました。実際、ほとんどの芸人は、基本的に一般人の前で笑いについて語ることを好みません。

 なぜなら、人を笑わせるのが本業である芸人にとって、ちょっとばかにされているぐらいの状態の方が望ましいという考えがあるからです。いつもばかばかしいことを言って、何も考えていないように見える方が、芸人にとっては本来の仕事がしやすいのです。

 芸人が「あのネタはこういうことを考えて作っていた」とか、「このぐらい頑張ってネタを考えている」などと言って裏の努力や工夫が見えてしまうと、客にとっては興ざめになってしまいます。舞台裏を見せられると、気軽に楽しめなくなってしまう恐れがあるのです。だから芸人は、人前で笑いについて語ることはしません。長い間、それが当たり前だとされていました。

お笑い番組で相次ぐ企画

 ところが最近、テレビのお笑い番組で芸人が笑いについて真剣に語るというコンセプトの企画が立て続けに放送されました。「アメトーーク!」(テレビ朝日系)では5月30日に「バラエティ観るの大好き芸人」、9月26日に「ツッコミ芸人が選ぶ このツッコミがすごい!」という企画が行われました。

 また「ゴッドタン」(テレビ東京系)でも、5月25日深夜に「このネタで飲める! お笑いを存分に語れるBAR」、9月28日深夜に「お笑いを存分に語れるBAR~漫才篇~」という企画が行われました。いずれも、バラエティー番組やお笑いについて芸人たちが集まって真剣に語るという内容でした。

「アメトーーク!」の「このツッコミがすごい!」では、漫才を演じているときの手の位置について話が及ぶなど、当事者にしか分からないようなディープなお笑い談義が行われていました。これらの番組以外でも、昨今のバラエティー番組では、芸人が笑いについて真面目に語る場面がしばしば見受けられます。

 この手の企画で活躍しているのが、ナイツの塙宣之さんです。彼は前述の「アメトーーク!」「ゴッドタン」の両方に出演していました。浅草を拠点にしており、その実力は折り紙付き。東京の漫才師のリーダー的な存在であり、2018年の「M-1グランプリ」(テレビ朝日系)では審査員を務めました。

 そんな塙さんは最近、「言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか」(集英社新書)という本を出しました。「M-1」や漫才について、塙さんが考えていることが理詰めで語られている傑作です。この本は発売後、すぐに大反響を巻き起こし、ベストセラーになっています。

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ラリー遠田(らりー・とおだ)

作家・ライター/お笑い評論家

1979年名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ、お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。「教養としての平成お笑い史」(ディスカヴァー携書)「とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論」(イースト新書)など著書多数。

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