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松本人志が「不良品」発言で伝えたかったことは何なのか

5月28日の川崎殺傷事件を巡って、ダウンタウンの松本人志さんが発言した内容が物議を醸しています。その真意とは――。

松本人志さん(2017年3月、時事)
松本人志さん(2017年3月、時事)

 5月28日に起きた川崎殺傷事件は、日本中に衝撃を与えました。両手に包丁を持った男が、スクールバスを待っていた小学生たちに次々と襲いかかり、最後には自ら命を絶ったというこの事件は、テレビなどでも大きく報道され、さまざまな議論を呼び起こしました。

 そんな中、2人のお笑い芸人がそれぞれの番組で、この事件について話したことが話題になりました。爆笑問題の太田光さんとダウンダウンの松本人志さんです。

松本発言は「優生思想」なのか?

 太田さんは6月2日放送の「サンデージャポン」(TBS系)で、長年引きこもっていたという51歳の容疑者の立場に理解を示しました。太田さん自身も学生時代に、一人も友達がおらず、何にも感動できなくなってしまったことがあったとのこと。

 そんな時に美術館でピカソの絵を見て、救われた気分になったそうです。自分のことがどうでもいいと思っているような人も、きっかけさえあればすぐ変わることができる。太田さんはそのように熱く語ったのです。

 凶行を起こした容疑者の心にまで寄り添い、励ますように訴えかけるその姿は、多くの視聴者に強い印象を残しました。

 一方、これとは対照的だったのが、同日放送の「ワイドナショー」(フジテレビ系)での松本さんの発言です。松本さんは事件を受けて、こう述べました。

「うん、だからその、僕は人間が生まれてくる中でどうしても不良品っていうのは何万個に1個、絶対これはもう、僕はしょうがないと思うんですね。それを何十万個、何百万個に1つぐらいに減らすことはできるのかなっていう。みんなの努力で。まあまあ、正直、僕はこういう人たちは絶対いますから、絶対数。もう、その人たち同士でやり合ってほしいですけどね」

 凶悪犯罪者を“不良品”と呼び、一定の確率でそのような人が現れることは避けられない、という趣旨の発言をしたのです。太田さんの発言と比べると、事件を起こした容疑者を突き放しているようにも見えます。

 ネット上では、この発言を問題視する声が多く、出来の悪い人間は排除すべきだという「優生思想」に近い危険な考え方だと指摘する人もいました。

 確かに、松本さんの発言には、そのような誤解を招く不用意な部分も見受けられます。ただ、松本さんの言いたかったことをくみ取って解釈するなら、そこに「優生思想」のような考えはなかったのだろうと思います。

 具体的には、「人間が生まれてくる中で」という表現がちょっと不適当だったのではないでしょうか。これを文字通り受け取ると、「生まれながらにして出来損ないの人間というものが存在する」と言っているように感じられてしまうからです。

 ただ、松本さんは、本当はそんなことが言いたかったわけではないのだろうと思います。彼の発言の根底にあるのは、凶悪犯罪を起こした人に対する怒りです。そして、松本さんは、その怒りをぶつけるべき場所がないことも知っているのです。それが「何万個に1個の不良品」という言い方に表れています。

 この事件に限らず、何か犯罪が起こると、マスコミでは犯人が犯行に至った動機を解明しようと背景を探っていきます。そして、家庭環境が悪かったとか、貧乏だったとか、いじめに遭っていたとか、引きこもりだったとか、友達が少なかったとか、それらしき原因を見つけようとするのです。

 しかし、当たり前のことですが、犯人が引きこもりだったからといって、全ての引きこもりが同じような犯罪に走るわけではありません。マスコミが血眼になって探している「凶悪犯罪を起こしてしまう根本的な原因」などというものは、実は存在しないのです。

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ラリー遠田(らりー・とおだ)

作家・ライター/お笑い評論家

1979年名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ、お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。「教養としての平成お笑い史」(ディスカヴァー携書)「とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論」(イースト新書)など著書多数。

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