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太田光さんは訴訟 うそや誇張を報じられた芸能人、なぜ裁判に訴えない?

スキャンダルを報道された芸能人が記者会見や自身のSNSで、虚偽や誇張された内容を報道されたと主張することがあります。なぜ、裁判に訴えないのでしょうか。

太田光さん(2020年12月、時事)
太田光さん(2020年12月、時事)

 お笑いコンビ・爆笑問題の太田光さんが「日本大学芸術学部に裏口入学をした」という週刊新潮の報道で名誉を毀損(きそん)されたとして、発行元の新潮社に約3300万円の損害賠償と謝罪広告の掲載を求めた訴訟で、東京地裁は12月21日、名誉毀損を認め、同社に440万円の支払いとネット上の記事の削除を命じる判決を言い渡しました。

 太田さんは裁判を起こして訴えが認められたわけですが、一方で、スキャンダルを報道された芸能人が裁判ではなく、記者会見や自身のSNSなどで「うその内容を報道された」「全て間違いではないが報道の内容は誇張しすぎだ」などと主張するケースもあります。なぜ、虚偽の内容や誇張された報道に対し、裁判に訴えない芸能人が多いのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

敗訴リスクを考えるケースも?

Q.芸能人も一般人と同じく、名誉を毀損されたと感じたときは訴訟を起こすことは可能です。イメージは芸能人にとって、とても大切であるはずですが、なぜ、虚偽や誇張された報道に対し、裁判によって名誉を回復する行動を起こさない芸能人が多いのでしょうか。

佐藤さん「訴訟は時間も手間もかかるものです。一審の判決に至るまでに1年以上かかることも多く、仮に一審判決に不服となれば、さらに長い間争われることになります。

芸能界の人気は流行や旬といったものに左右される面もあり、訴訟を起こして争っている間に、自分自身への世間の関心が離れてしまう可能性もあります。仮に数年後、裁判に勝っても、その頃にはメディアはあまり報じてくれず、世間には虚偽報道のブラックなイメージだけが残ってしまう恐れもあり、訴訟する意味があまりないと判断し、訴訟を起こさない芸能人もいるのではないでしょうか。

芸能人の場合、名誉を回復するには、訴訟を起こすよりも世間の目が自分に向いている間に自身がメディアを通じて証拠を示し、報道が虚偽であると訴えた方がよいケースもあるのでしょう。また、裁判で負けてしまうリスクを考え、訴訟を起こさないケースも考えられます。名誉毀損の損害賠償請求訴訟では『記事の重要な部分が真実か』も問われますが、仮に真実と証明できなくても、『十分な取材が行われ、確実な資料や根拠に基づき、(報道側に)真実と誤信する相当の理由があったか』について争われることも多いです。

何の根拠もない全くの虚偽報道であれば、報道側が真実性の証明に成功するとは思えませんが、誇張された報道であれば、真実性が証明され、芸能人側が負けてしまう可能性もあります。そうなるとイメージがさらに悪化する恐れがあるため、提訴に至らないケースもあると思われます。もちろん、名誉を毀損された芸能人が裁判で白黒つけたいと強く望んで、裁判に訴えることもあり得るでしょう」

Q.訴訟を起こすことで、その後の芸能活動に支障が起きるようなことがあるのでしょうか。

佐藤さん「訴訟を起こしただけで、芸能活動に大きな支障が起きることは少ないのではないでしょうか。もちろん、訴訟に負けて、敗訴という結果、つまりは『報道内容が真実』か、『真実と信じるに足る理由があった』ということが大々的に報じられれば、さらに大きな支障が生じる可能性はあります」

Q.スキャンダルの報道後、メディアなどを通じて「事実無根」と全面的に否定し、「訴訟の準備を進める」と言いながら、実際には訴訟を起こさない芸能人もいます。なぜでしょうか。

佐藤さん「実際に訴訟を起こすか否かは勝訴の見込みや、訴訟以外の方法によって名誉回復する道、裁判にかかる時間や手間、費用などさまざまな要素を総合的に考慮して、結論を出すのが一般的です。そのため、当初は『訴訟の準備を進める』という意思を表明したけれども、弁護士などとも相談し、いろいろと検討した結果、訴訟を起こさないという結論に至ることも少なくないと思います」

Q.虚偽や誇張された報道で、芸能人としての活動やその後の人生まで大きく変えられてしまう人もいると思います。活動や人生が大きく変えられてから、時間がたって訴訟を起こし、名誉を回復するのは難しいのでしょうか。

佐藤さん「芸能活動に大きな影響が出た後であっても、損害賠償請求訴訟を起こすことはできますし、裁判で勝訴する可能性もあります。ただし、先述したように、たとえ勝訴したとしても、メディアでそのことがほとんど報じられず、世間に虚偽報道の記憶だけが残ってしまうこともあります。また、虚偽報道がきっかけで人気が陰り、勝訴したときには芸能界での活躍の場がなくなっていることも考えられます。

そのため、最もよいのは報道が出る前、出版などの差し止めを命じる仮処分を得る方法でしょう。これが間に合わないと記事が出てしまうため、問題のある報道がなされそうだということが分かったら、できる限り早く弁護士に相談することが大切です。ただし、出版などを差し止める仮処分は報道側の『表現の自由』を大きく制限するものであるため、厳しい要件を満たしたときしか認められません。

なお、記事が出てしまった後、損害賠償請求訴訟を起こす場合、『損害および加害者を知ったとき』から3年の間に行使しないと時効によって権利が消滅する(民法724条1号)ので、注意が必要です」

(オトナンサー編集部)

佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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