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渋谷の街に200メートルのキャンバス、少女と愛犬の物語がネットで感動呼ぶ どんな企画?

東京・渋谷の全長200メートルの「キャンバス」に、少女と愛犬を巡るショートストーリーが温かなタッチで描かれ、話題となっています。

明治通り沿いに描かれた作品。右手に向かってストーリーが展開される
明治通り沿いに描かれた作品。右手に向かってストーリーが展開される

 東京・渋谷の明治通り沿いに登場した「アート作品」が話題になっています。宮下公園の再開発に伴う工事の仮囲い、全長200メートルの「キャンバス」に、少女と愛犬を巡るショートストーリーが温かなタッチで描かれ、渋谷の街にいる、さまざまな人たちとの触れ合いが感動を呼んでいるからです。SNS上では「こんなすてきなものが渋谷に」「道歩いてて泣いてしまった」「素晴らしい」といった声が上がっています。

広告代理店社員らでつくるNPO

 物語のタイトルは「A day in the life Shibuya」。ハチ公前を散歩していた少女と愛犬が、ふとした拍子にはぐれてしまいますが、白杖(はくじょう)を持った視覚障害のあるおばあさんや、車いすバスケットボールをしている人たち、男性カップルなどと知り合い、助け合ううちに、再会を果たす…というストーリーです。シンプルな絵柄ながら、温かみのあるタッチで、豊かな表情から登場人物たちの感情が伝わってきます。

 この「渋谷明治通りPROJECT」を企画したのは、東京を中心に活動するNPO法人「365ブンノイチ」です。プロジェクトリーダーの田村勇気さんに聞きました。

Q.「365ブンノイチ」とは。ホームページには「まちが、優しい笑顔で溢(あふ)れるきっかけを作りたい」と活動を始めたNPO法人とあります。

田村さん「2017年7月に設立しました。現在のメンバーは15人ほどです。僕を含めて半分弱が広告代理店の社員で、アートディレクターやプロデューサーなどをしています。メンバーには、落書きを消す清掃業者さんや、会計士、専業主婦もいます。仕事で培ったノウハウを生かして社会貢献する『プロボノ』集団です。

基本コンセプトは、壁や建物に絵を描いて街の名所にすることです。ただし、従来のストリートアートとは違い、アーティストの描きたいもの優先ではなく、アートの要素を抑えて、地元密着型で地域の人たちが求めるものを作るようにしています。下北沢や目黒、足立区にも作品があり、現在は中目黒で大規模な作品を制作中です」

Q.渋谷での取り組みのきっかけは。

田村さん「2017年2月、ソーシャルビジネスのグランプリで優勝し、ストリートアートのNPO法人をつくろうと思いました。落書き消しの業者さんから、『落書きを消すのに数十万円とか相当の費用がかかる』という話を聞いていたからです。落書きを解消するには、描く気にさせないのが一番で、『自分よりレベルの高い絵の上には落書きをしない』とも聞いていたので、落書き抑止になるだけでなく、街の人たちに喜んでもらえ、地域の活性化にもなるストリートアートを始めようと思いました。

そこで、特に落書きの多い渋谷に照準を絞りました。渋谷区の上層部の人と話す機会があり、『宮下公園を2020年に向けて再開発する。高さ3メートル、長さ200メートルの囲いがあるので、もしよかったらここでやってみますか』と言われ、血が騒いで、気付いたら、みんなに声をかけていました。渋谷区と都の許可を得て実施しました」

Q.ストーリーを考えたのはどなたですか。同性カップルや障害者が出てくる狙いは。

田村さん「ストーリーはNPOのメンバーで考えました。渋谷区は(多様性が尊重される)『ダイバーシティ』をうたっています。とてもよい考え方で、社会的弱者といわれている人たちも含めて新しい世の中をつくっていく、という考え方を生かそうと、メンバーに話して同意を得ました」

Q.原画はイラストレーターの金安亮(かねやす・りょう)さん。下書きと本塗りは、大勢の美大生が手伝ってくれたそうですね。

田村さん「100人くらいの美大生と、NPOのメンバー、クラウドファンディングの支援者や友人など総勢約200人が協力してくださり、2018年2月から4月の約2カ月で作りました」

Q.作品展示はいつまでの予定ですか。

田村さん「最初は『半年で終わり』と言われていたのですが、今は特に言われていません。区が気に入ってくれて、渋谷区の『環境基本計画』の啓発動画にこの作品のキャラクターが使われています。宮下公園の工事が終わるまで展示を続けさせてくれるのでは、と期待しています」

Q.最近、ネット上で「泣ける」「心温まる」と話題になっています。

田村さん「驚きです。『完成から1年たってなんで今ごろ』という感じで。それまでも、写真を撮ってくれる人はいたのですが、今回の反応は、ストーリー全体を動画に撮ってネットに上げてくれた人がいて、それでかなと思います」

Q.これまで、あまり話題にならなかったのは、それだけ地域の風景に溶け込んでいたということでは。

田村さん「そこは狙い通りでした。一時は驚いて飽きがくるより、飽きがこないシンプルなものを作りたかったので」

Q.この作品で伝えたいことは。

田村さん「50人くらいの人が登場していますが、それぞれ違う価値観があり、しかし支え合い、新しい社会をつくっている。多様性を認めてもらいたいというのがあり、優しい感じを伝えたかったです。ストレスフルな世の中なので、とげとげせず 優しい気持ちで見守ってあげられるような世の中になるといいし、自分もそういう人間になりたいと思って作りました」

(オトナンサー編集部)

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