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【いまさら聞けない法令用語】「前科」と「前歴」はどう違う? 弁護士が解説

ニュースや新聞でよく見聞きするものの、実はよく分かっていない法令関連用語について、弁護士に聞いてみました。

「前科」と「前歴」の違いって?
「前科」と「前歴」の違いって?

 事件に関する報道だけでなく、ドラマや映画などの劇中でも耳にすることのある法令用語の一つに「前科」があります。また、よく似た用語として「前歴」という言葉が使われることもあります。この両者にはどんな意味と違いがあるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

大きな違いは「有罪判決」を受けたか否か

Q.まず、「前科」という言葉の意味について教えてください。

佐藤さん「『前科』とは一般に、有罪判決を受けた経歴のことです。検察官に起訴されて、裁判所から有罪判決を受ければ前科がつきます。

有罪となった場合、懲役刑であれ、罰金刑であれ、また、執行猶予付きの判決であれ、前科はつきます。例えば、交通事故を起こし、略式手続(正式な裁判ではなく、簡単な書面審理)で罰金刑を科された場合であっても、前科が残ります。

なお、軽いスピード違反など、軽微な道路交通法違反であれば、交通反則通告制度の対象となり、一定期間内に反則金を納めれば、刑事裁判を受けずに事件が処理されるため、前科はつきません」

【前科による制限、不利益】

前科は、重大なプライバシー情報なので厳重に管理されており、一般の人が公的に前科の有無を調べることはできません。しかし、実名が報道されることで、就職や転職、結婚といったさまざまな場面で、事実上、社会的な不利益を受けることが考えられます。

また、一定の前科がつくことで、公務員や教師、警備員、弁護士、医師など、制限される職業・資格がある他、海外渡航に制限がかかることもあります。有罪判決を受けることが、会社の就業規則上「懲戒事由」と定められている場合もあり、犯した罪の重さによっては、懲戒解雇処分になることもあり得ます。

また、前科によっては、再び罪を犯した際に法定刑が重くなるなど、法律上の不利益が与えられることがあります。前科は「1犯、2犯…」と数えられ、前科の存在や数は、再び罪を犯した際に不利な情状として考慮されることも多いです。

【前科の消滅】

前科は、「懲役刑や禁錮刑の執行が終わり、罰金以上の刑に処せられずに10年を経過したとき」「罰金を支払い終わり、罰金以上の刑に処せられずに5年を経過したとき」「執行猶予の期間を経過したとき」に、法的には消えます(刑法34条の2、27条)。

法的に前科が消えることにより、職業や資格の制限もなくなりますが、報道などの影響により、事実上の社会的な不利益が残ることはあり得るでしょう。なお、捜査機関に残った前科に関するデータは一生残ります。

Q.次に、「前歴」という言葉の意味について教えてください。

佐藤さん「『前歴』とは一般に、捜査機関から犯罪の容疑をかけられ、捜査を受けた経歴のことです。逮捕された場合はもちろん、『逮捕はされなかったが、容疑者として在宅で捜査された場合』でも前歴は残ります。また、検察官が起訴しなかった場合や、刑事裁判になって無罪判決を受けた場合などでも残ります。

前歴についても、プライバシーにかかわる情報であるため、捜査機関が厳重に管理しており、一般の人が照会することはできません。しかし、例えば、逮捕された段階で実名が報道されていると、その後、被害者との示談が成立するなどして起訴されなかったとしても、前歴が広く知れ渡ることになり、就職や転職、結婚といったさまざまな場面で、事実上、社会的な不利益を受けることが考えられます。しかし、前歴については、職業や資格が制限されたり、海外渡航に制限がかかったりすることはありません。

なお、前歴は捜査機関に残り、再び罪を犯した際に捜査の資料とされ、処罰を受ける際、不利に働く可能性があります。捜査機関に残った前歴に関するデータが消えることはありません」

Q.つまり、「前科」「前歴」の違いとは何でしょうか。

佐藤さん「『前科』と『前歴』の大きな違いは、『有罪判決を受けたか否か』です。

事件が起こると、警察が捜査し、検察に事件を送り、検察が起訴すれば刑事裁判になり、その裁判で有罪・無罪が決まります。一連の流れの中で、有罪判決に至れば『前科』がつくことになり、そこに至らなかった場合は『前歴』にとどまります。

前科であれ、前歴であれ、報道などの影響により、社会的にさまざまな不利益につながる可能性があるのは同じですが、前歴には法的なペナルティーがないという違いがあります」

(オトナンサー編集部)

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佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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