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「変な髪形!」「パーマで髪が…」 美容院に返金や損害賠償、請求できる?

美容師にカットやパーマを依頼したときに、おかしな髪形になったり、髪が傷んでしまったりした場合、返金や損害賠償を求めることは可能なのでしょうか。弁護士に聞きました。

おかしな髪形になった…美容院に返金などを求めることはできる?
おかしな髪形になった…美容院に返金などを求めることはできる?

 美容院で髪を切ってもらったときに、「イメージしていた髪形と全然違う」と感じたことはないでしょうか。中には、「こちらの希望よりも髪を短く切られた」「おかしな髪形になった」「パーマに失敗し、髪が傷んでしまった」といったケースも発生しているようですが、この場合、美容院側に返金や損害賠償を求めることは可能なのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

返金が認められないケースも

Q.美容院でカットやパーマを依頼後、「こちらの希望よりも髪を短く切られた」「おかしな髪形になった」「パーマに失敗し、髪が傷んでしまった」といったケースが発生した場合、美容師側が法的責任を問われる可能性はありますか。また、客は美容院側に返金や損害賠償を求めることは可能なのでしょうか。

佐藤さん「美容師がカットやパーマに失敗した場合、法的責任を問われる可能性があります。具体的には、客から施術料の返金や減額を求められたり、慰謝料などの損害賠償を求められたりする可能性があるでしょう。

美容師と客は、客が施術料を支払い、美容師がカットやパーマなどを施す契約を結んでいます。そのため、カットやパーマなどの失敗は契約違反(債務不履行)に当たる場合があります。また、契約の性質上、はさみやカラーリング剤などを使って施術するため、美容師側は、客の生命や体を害しない安全配慮義務を負っており、『パーマで髪が傷んでしまった』といった場合、客の体を傷つけたとして法的責任が生じることも考えられます。

ただし、『事前に伝えた希望通りの髪形にならなかった』『通常の施術よりも、髪が傷む程度が激しかった』といった場合、一般的には、それほど大きな損害が生じたとは評価されず、高額の慰謝料が認められることも考えにくいです。

従って、美容院の施術における失敗があった場合、現実的には話し合った上で、施術料の返金などによって解決するケースが多いのではないかと思います」

Q.では、カットやパーマのミスで客がけがをした場合、美容師が刑事責任を問われる可能性はあるのでしょうか。

佐藤さん「先述のように、美容院での施術では、はさみやカラーリング剤などの薬品を使うため、施術中に誤って客にけがを負わせてしまうことがあり得るでしょう。例えば、カット中にはさみで客の耳を傷つけてしまったり、薬剤でやけどを負わせてしまったりした場合、業務上過失致傷罪(刑法211条)に問われる可能性があります。

ただ、実際には客側が警察に被害を届け出ることは少ないので、刑事責任を問われるケースは珍しいです」

Q.「こちらの希望よりも髪を短く切られた」「おかしな髪形になった」「パーマに失敗し、髪が傷んでしまった」といったケースであっても、返金や損害賠償の対象にならない可能性はあるのでしょうか。

佐藤さん「美容師は客が希望する髪形になるように施術する必要がありますが、客からの希望はある程度抽象的なものであり、また、客の頭の形や状態、髪質などは人それぞれ異なり、同じ施術をしたら必ず同じ結果が出るわけでもありません。そのため、客から求められた髪形にするために合理的な方法を採用していれば、債務不履行に基づく責任は負わないと判断される可能性があります。

例えば、客がカット前に『すべてお任せします』と美容師に頼み、仕上がりが『おかしな髪形』に感じられたとしても、返金や損害賠償が認められる可能性は低いでしょう。また、『この髪形にしてほしい』とイメージ画像を示して依頼した場合であっても、美容師が合理的な方法を採用し、施術した結果、多少イメージ画像と異なる仕上がりになったようなケースについても、返金などが認められないことは考えられます」

Q.明らかに美容院側のミスで「おかしな髪形になった」「パーマに失敗し、髪が傷んでしまった」などのケースが発生した場合でも、店側が代金の返金や損害賠償請求に一切応じない場合、客はどのように対処するのが望ましいのでしょうか。

佐藤さん「先述のように、こうしたケースにおける損害は、それほど大きく評価されず、裁判を起こして損害賠償請求しても費用倒れになってしまうことが多いです。

そこで、まずは、施術のやり直しも含め、美容院側と交渉することが大切だと思います。美容院もサービス業であるため、話し合いに応じてくれるケースが多いのではないでしょうか。話し合いにも一切応じず、解決できないような場合には、少額訴訟(60万円以下の金銭の支払いを求める場合に限って利用できる、簡易裁判所における特別の訴訟手続き)を提起するなどの方法も考えられます」

Q.美容師が、カットやパーマに失敗したことがきっかけで裁判に発展した事例について、教えてください。

佐藤さん「いわゆるキャバクラに勤める女性が、女性雑誌に載っていた髪形を参考にカットなどを依頼したところ、希望の髪形にならず、美容院側に約600万円の損害賠償を求めた訴訟などがあります。

女性は、長く美しい髪をアピールポイントとして働いていて、カットによって収入が減ったと主張していました。裁判では、カットの失敗と収入減少との因果関係は否定されたものの、『女性の希望を十分に確認しなかった注意義務違反があった』ことが認められ、『ヘアエクステンション(かつらの一種)の装着を余儀なくされ、接客に自信が持てなくなった時期があった』ことを踏まえ、美容院側に約25万円の支払いが命じられました」

(オトナンサー編集部)

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佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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