“常に全力投球”はNG 当事者が語る「うつ病」になったときの注意点、対処法とは?
うつ病で闘病中の人が執筆した本が発売されました。この本から、うつ病になったときの注意点や対処法を読み解きます。

うつ病9年目、再発5回。うつ当事者によるウェブマガジンでの連載が書籍化されました。本のタイトルは「うつ病で20代全部詰んでたボクが回復するまでにやったこと」(サンクチュアリ出版)。現在もうつ闘病中のデラさんが、うつの「底」から抜けるためにやったすべてのことが紹介されています。
仕事の優先順位を決めて
一度うつ病を発症すると、そこから社会復帰するのはとても険しい道のりになります。その最大の要因は「回復が追い付かない」ことです。うつ病を経験した多くの人が「疲労」に負けていると、デラさんは言います。その結果、うつ病を再発してしまったり、体調を崩してしまったりすることが多いのです。
「とりくむべきミッションは、『休みの日に回復する量を多くする』ということですね。可能であれば、働く日数を減らして、休む日数を増やすのがオススメです。回復にあてられる時間が多くなればなるほど、回復の勝率は上がっていくからです。そしてもうひとつ、仕事へのとりくみ方を変えていく必要があります」(デラさん)
「あなたが今までに学んできた『仕事で成果を出す』やり方とは真逆のことです。まずは『仕事の優先順位を考える』こと。 たとえば、『仕事場のゴミを捨てる』という仕事があったとします。 これを『120%の力でやると3分で終わる』けれど、『30%の力でやると4分で終わる』場合、後者を選択できるようになってほしいです」(同)
「ゴミを捨てる」というのは、誰がやっても大差がなく、緊急でもなく、お金を生まない仕事です。このような仕事にフルパワーをぶち込んでも、もったいないとデラさんは言います。
「うつ病になってしまう多くの人は、こうした場面でも気を張ってがんばってしまいがちです。どうでもいい局面でも100%、120%の力を出してしまうから、疲れが蓄積されていくのです。 これでは、週末の休息だけでは回復が追いつきません。逆に当然のことですが、『ミスをしてはいけないとき』は、120%の全集中で業務にとりくむ必要があります」(デラさん)
「それ以外の場面では、フルパワーでやる必要はありません。がんばるタイミングを見極めて、それ以外はリラックスモードで“流す” このスイッチの切り替えができるようになると、疲労が抑えられて働き続けやすくなります。よくある失敗が、『メイン』を疎か(おろそか)にしてしまうこと。本人はがんばっているつもりでも、評価されなくなります」(同)
限りあるリソースは、必要な仕事に注ぎ込まなければなりません。それ以外は堂々と流して回復に充てるべきなのです。 まずは、仕事の優先順位をつけることが大切です。
流行の常識を疑うこと
精神科医や、メンタル系の発信者がよく提唱するのが朝散歩のススメです。「太陽を浴びてセロトニンの分泌を増やすと、心が安定し、うつ病から回復できる」という話は、聞いたことがあると思います。仕事や勉強なども朝の方がはるかにはかどるとも言われています。調査研究も多く、それなりにエビデンスに基づいているとも言えるでしょう。
しかし、筆者の場合は朝型ではなく夜型です。確かに朝日を浴びるのは気持ちがいいですが、執筆は夜の方がはかどります。このスタイルは10代の頃から変わっていません。人によって朝型、夜型がありますから、無理やりはやりに合わせる必要はないのです。デラさんも次のように言います。
「うつ病の人が1日に得られる活動エネルギーが100だとすると、消費エネルギーは1万にもなるイメージです。だから、朝散歩をして活動エネルギーを仮に2倍に増やしたところで、焼け石に水。精神科医の言うとおり、セロトニンは大事なんだと思います。でも、うつ病のボクらは、まず消費エネルギーを減らすほうに力を注ぐべきなのです」(デラさん)
自殺未遂で死に切れなかった4年前、まさにうつの底にいたデラさんは「いったん死んだ自分だから、残りの人生は“おまけ“だと言います。うつから抜け出すための、思考法や生活習慣とはどのようなものでしょうか。精神科医やメンタル専門家ではなく、経験者が解説しているところに本書のリアルさがあります。多くの人に生きるヒントを示唆する一冊です。
(コラムニスト、著述家、明治大学客員研究員 尾藤克之)
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