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夏、海水浴だ!の前に、命を守るため確認してほしいこと

世の中のさまざまな事象のリスクや、人々の「心配事」について、心理学者であり、防災にも詳しい筆者が解き明かしていきます。

海水浴場に「津波」注意の看板(2011年4月、時事通信フォト)
海水浴場に「津波」注意の看板(2011年4月、時事通信フォト)

 今年も海水浴シーズンがやってきました。筆者も海が大好きなので、この時期の天気の良い週末は、ほぼ海で過ごしています。白い砂に青い海、輝く太陽。この上なく楽しい時間ですが、海での時間を心置きなく楽しんでいただくために、事前にぜひやっておいてほしいことがあります。それは海水浴場のハザードマップチェックです。

津波は海水浴場も襲う

 防災のことにある程度敏感な人であれば、自宅や職場など、よく行く場所のハザードマップを確認し、どのような災害リスクがあるかをチェックしていることと思います(これがまだの人は、この記事を読んだ後に、ぜひ確認をお願いします)。

 しかし、旅行に行く時に、旅先のハザードマップは確認しているでしょうか。災害は怖いことですので、楽しい旅行とは対極にあります。だから、楽しい旅行を前にして、災害のことを調べることには抵抗があるかもしれませんが、もしかしたら、ちょっとした知識の違いが生死の分かれ目になるかもしれないので、目を背けずに少しだけ事前調査をしておきましょう。

 台風が来ているような大雨の時、海水浴に行く人はあまりいないと思うので、天気が良い時に海水浴に行くなら、海水浴場の「土砂災害」や「洪水」の情報はチェックしなくて良いと思います。一方、「地震」とそれに伴う「津波」は天気とは無関係ですので、どこまで津波が来るのかは、よく確認しておく必要があります。津波の中継というと港が定番ですが、津波は港だけでなく、海水浴場にも当然やってきます。

 全国レベルで津波の浸水域を簡単に調べるのなら、国土交通省がインターネット上で公開している「重ねるハザードマップ」が便利です。地図を表示して津波のアイコンをクリックすれば、どこまで津波が来るのか、浸水深は何メートルなのか簡単に確認できますので、どこまで逃げれば安全なのか確認しておきましょう。

 念のため、自治体が公開している、より詳しいハザードマップも併せて確認するのがベターです。ただし、ハザードマップの浸水域の範囲はあくまでも想定なので、ギリギリラインまでではなく、少し余裕を持って、より高いところに移動する前提で考えることをお勧めします。

 また、浸水深が数十センチであればどうにかなると思うかもしれませんが、津波は流速が大変早く、30センチ程度でも足を取られて転倒したり、前に進めなくなったりするそうなので、津波がやってくる前に、確実に浸水域の外に出ることを考えましょう。

 重ねるハザードマップで浸水域は分かっても、津波の到達時間は分かりません。そこで、検索エンジンに海水浴場の地名と「津波」「到達時間」などのキーワードを入れて検索してみます。すると、高い確率で、津波の到達時間の情報が得られます。

 津波の到達時間の情報が得られたら、海水浴をしようと思っているビーチから、重ねるハザードマップの浸水域の外まで歩いて何分で行けるか、グーグルマップの経路検索などで調べてみましょう。大きな地震の場合、2分程度は揺れが続く場合があるので、「徒歩時間+2分<津波到達時間」であることを確認し、どのくらいの時間的猶予があるのか知っておいてください。もし、「徒歩時間+2分>津波到達時間」であれば、海水浴場の変更を検討した方がよいかもしれません。

 津波到達までに逃げられる時間があることが分かったら、ストリートビューなどを使って、避難経路を確認しましょう。特に、分かれ道や山に登る入り口の目印などは入念に確認し、可能なら現地に行って避難ルートを再確認するとともに、家族や友達にも、いざという時にどこを通ってどこへ逃げれば良いか伝えるようにしてください。

 避難に支援が必要な小さい子どもやお年寄りなどは別として、各自自分の命を最優先にして、勝手に逃げて助かろうという「津波てんでんこ」の精神も共有しておきましょう。誰かを助けに行ったり、待っていたりすることなく、お互いに、「自分は必ず勝手に逃げて生き延びるので、あなたも私のことは気にせず、勝手に逃げて生き延びてくださいね」ということを示し合わせておくことをお勧めします。

 楽しい海水浴の前に、こんなネガティブな想像をしていたら楽しめない、と思われるかもしれませんが、そこは考え方次第だと思います。少なくとも筆者は、リスクを知り、いざという時にどうすればよいか知っているからこそ、思いっきり海水浴を楽しめると考えています。皆さんも、お出かけ前のハザードマップチェックをしてみてはいかがでしょうか。

(近畿大学生物理工学部准教授 島崎敢)

【チェック!】海水浴前に確認しておきたいポイント

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島崎敢(しまざき・かん)

近畿大学生物理工学部准教授

1976年、東京都練馬区生まれ。静岡県立大学卒業後、大型トラックのドライバーなどで学費をため、早稲田大学大学院に進学し学位を取得。同大助手、助教、国立研究開発法人防災科学技術研究所特別研究員、名古屋大学未来社会創造機構特任准教授を経て、2022年4月から、近畿大学生物理工学部人間環境デザイン学科で准教授を務める。日本交通心理学会が認定する主幹総合交通心理士の他、全ての一種免許と大型二種免許、クレーンや重機など多くの資格を持つ。心理学による事故防止や災害リスク軽減を目指す研究者で、3人の娘の父親。趣味は料理と娘のヘアアレンジ。著書に「心配学〜本当の確率となぜずれる〜」(光文社)などがあり、「アベマプライム」「首都圏情報ネタドリ!」「TVタックル」などメディア出演も多数。博士(人間科学)。

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