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「ここはモナコ、モンテカルロ絶対に抜けない」…なぜこの実況中継は伝説なのか?

新刊「ちょっとしたことで差がつく 最後まで読みたくなる 最強の文章術」の中から、文章術に関するエッセンスを紹介します。

アイルトン・セナ(1989年9月、AFP=時事)
アイルトン・セナ(1989年9月、AFP=時事)

 読者目線は大切ですが、迎合していては伝わる文章にはなりません。文章に限らず、言葉は自信のある論調にしたいものです。そのためには、「断定して言い切る」ことの重要性を理解しましょう。今回は、筆者の新刊「ちょっとしたことで差がつく 最後まで読みたくなる 最強の文章術」(ソシム)の中から文章術に関するエッセンスを紹介します。

読者にこびない、迎合しない、押し付けない

 まずは、次の文を読んでください。

1.東大に合格するなら、この参考書を読むべきだ。
2.東大に合格するなら、この参考書はいいかもしれません。

1のほうが、2よりも説得力があるように感じませんか。ほかのケースで考えてみましょう。イメージしやすいようにテレビ番組の実例から引用します。

1.ここはモナコ、モンテカルロ絶対に抜けない!
2.ここはモナコ・グランプリのサーキットです。抜くのが大変です!

 これは、1992年F1モナコGP(5月31日決勝)で実況をしていた三宅正治さんの実況です。この日はルノーのナイジェル・マンセルがトップを快走していました。残り8周、マンセルが緊急ピットインをしタイヤ交換を行います。

 ピットアウトした時にはすでにアイルトン・セナ(ホンダ)が先行していました。マンセルは、残り3周でセナに追いつきアタックを試みますが、セナはマンセルを懸命にブロックして抜かせません。この時に発せられたのがこの言葉です。

「ここはモナコ、モンテカルロ絶対に抜けない!」

 中には、「それはテレビの音声」「文章とは関係ない」という人もいるかと思います。当時は、いまのように見逃したらすぐに動画アップされているような時代ではありません。年末のF1総集編でようやく多くの人がレースの光景を目にすることになりますが、それまでは、文章で語り継がれるしかありませんでした。

 翌日以降、新聞、雑誌にはレースの模様が描写され、その中に「ここはモナコ、モンテカルロ絶対に抜けない!」の文字が躍ります。レースを見ていない人が活字を読みながら熱狂していたわけです。この時、三宅さんの発した言葉が、次のようだったら、どうでしょう。

「ここはモナコのサーキットです。抜くのが大変です!」

 このような言葉だったら、レースがここまで語り継がれることはなかったと思います。実は、このレースは史上最高のレースとも言われています。長きにわたってF1の実況を担当したマレー・ウォーカー氏は、2009年英BBCの特集で、史上最高のレースとしてランク付けをしています。

断定して言い切ることの難しさ

 ところが、多くの人は「断定して言い切る」ことができません。批判を浴びるのが怖いからです。次は仕事の場面を想定してみます。

1.来期の経営計画はこれでいきます。やらせてください!
2.来期の経営計画は熟慮し関係者と吟味した上で策定するつもりです。

 あなたが社員の立場なら、どちらのメッセージにやる気を感じますか。社長が、2のようなメッセージを発したら、社員はどのように感じるでしょうか。

 自分の意思を持たない書き方は文章を読みにくくします。意思を持たない文章は抽象的で読者に不快感を与えます。文章を書く際には慎重になりすぎて、あれこれと気をもむよりも腹をくくってください。読んだ人から嫌われても構わない勇気を持ちましょう。

 文章では、伝えたいメッセージを主張しなければ意味がありません。主張がない限り、読者にとって得られるメリットもないので、伝わることもありません。自分の意思がない文章では意味がないのです。

(コラムニスト、著述家 尾藤克之)

尾藤克之(びとう・かつゆき)

コラムニスト、著述家 尾藤克之

コラムニスト、著述家。
議員秘書、コンサル、IT系上場企業等の役員を経て、現在は障害者支援団体の「アスカ王国」を運営。複数のニュースサイトに投稿。代表作として『頭がいい人の読書術』(すばる舎)など21冊。アメーバブログ「コラム秘伝のタレ」も絶賛公開中。

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