詐欺では?指摘も 「宿題」代行業者と依頼する親に法的責任はない?
夏休みの「宿題」を子どもに代わって行う代行業者が数年前から現れましたが、一部の教育評論家や保護者から、「詐欺ではないか」という声があります。宿題代行業者や、代行を依頼する親に法的責任はないのでしょうか。

夏休み終盤、小学生が「宿題が終わっていない」と親に手伝ってもらいながら、宿題を仕上げる光景は定番です。そのため、数年前から宿題代行業者が現れ、ネットで検索すれば、すぐに代行業者のサイトを見つけることができますが、一部の教育評論家や保護者からは「子どもが宿題をやっていないのにやったかのようにして、学校に提出するのは詐欺ではないか」という声が上がっています。
代行業者は依頼された子どもの学力に合わせ、回答を「適度に」間違えたり、筆跡を似せたりするなど、「子どもが宿題をやった」と思わせる細工をするのですが、これは学校の担任をだまそうとする偽装工作のようにも思えます。代行業者に法的責任はないのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。
罪になるハードルは高い
Q.宿題代行業者に依頼した親は「子どもが宿題をしていないのにしたように装って、学校に提出する」ことは認識しているはずです。代行業者に依頼したことに対する法的責任は生じないのでしょうか。
佐藤さん「夏休みの宿題を代行業者に依頼したとしても、親に法的責任は生じません。親は代行業者と『子どもの宿題を代わりにやってもらい、その報酬を支払う』という契約を締結しており、法的には『誰とどのような内容の契約を締結するのも自由』という原則があるからです。
あまりに道徳に反する内容の契約であれば、『公序良俗に反する』として無効になります(民法90条)が、法的に公序良俗違反と認められるハードルは高く、宿題代行の依頼は公序良俗違反に当たらない可能性が高いと思われます。例えば、裏口入学をあっせんする契約は公正な入試制度を害するので、公序良俗違反として無効とした裁判例が多くあります。一方、夏休みの宿題などを業者に依頼したとしても、児童・生徒間の公平性を害する程度は必ずしも大きくなく、あらゆる宿題代行契約が一律無効になるとは考えにくいです。
宿題代行によって迷惑を被る人がいるとしたら、だまされる学校や先生かもしれません。しかし、宿題代行によって、学校や先生の業務が妨害されたとまではいえず、学校側に何らかの損害が生じたとも言いにくいでしょう。そのため、親が不法行為に基づく損害賠償責任を負うこともないと考えられます」
Q.宿題代行業者の法的責任はどうでしょうか。特に、依頼された子どもの学力に合わせ、わざと回答を「適度に」間違えたり、筆跡を似せたりすることは「子どもが宿題をやった」と学校の担任に思わせる偽装工作のように思えますが、詐欺罪など法的責任はないのでしょうか。
佐藤さん「宿題代行業者が詐欺罪に問われることはありません。詐欺罪は簡単に言えば、お金などをだまし取る犯罪です。宿題代行業者は子ども本人が宿題をやったように見せかけているため、学校側をだましているとはいえますが、学校側から、お金などをだまし取っているわけではないからです。
また、宿題代行が私文書偽造罪や偽計業務妨害罪を成立させることもないと考えられます。例えば、『替え玉受験』であれば、入試の答案は志願者の学力の証明に関するものなので、私文書偽造罪に問われますが、夏休みの宿題代行の場合、犯罪が成立する要件を満たさず、罪に問われることはないでしょう。
また、先述したように、宿題代行によって学校側の業務が妨害されたとはいいにくく、偽計業務妨害罪が成立することもないと思います。民事上の賠償責任を問われることもないでしょう」
Q.業者が代行した読書感想文や自由研究が「よくできている」ということで、外部のコンクールに応募し、表彰されたとします。そのときに賞品や賞金を受け取った場合、何らかの法的責任は生じますか。
佐藤さん「コンクールは、子ども本人が取り組んだ読書感想文や自由研究であることを前提にしていると考えられます。そのため、後から、宿題代行業者によって作られたものだと判明すれば、受賞が無効となり、親には受け取った賞品や賞金を返還する義務が生じるでしょう。一方、代行業者が何らかの法的責任を問われることは考えにくいです。代行業者は、親との契約に基づいて仕上げた読書感想文や自由研究が学校で評価され、外部のコンクールに応募されること自体、通常は予想していないものと思われます。
そのため、コンクール主催者に一定の損害が発生したとしても、代行業者には故意や過失がなく、民事上の『不法行為責任』が生じるとは考えにくいです。また、賞品や賞金をだまし取ろうとしたわけでもないので、詐欺罪などの刑事責任に問われることもないでしょう」
Q.今年の夏休みにも、宿題代行業者に依頼する親は一定数いると思います。「学校の宿題が受験勉強の邪魔になる」など、それぞれ事情はあると思いますが、違法にならないのであれば、利用した方がよいと思われますか。
佐藤さん「違法になるかどうかと利用するかどうかは別問題です。法は社会秩序を守るため、最低限必要な決まりであり、法に違反しなくても道徳に反するケースはいくらでも存在します。親は善かれと思って宿題代行業者を利用するのかもしれませんが、子どもが宿題に取り組む機会を奪っていることを考えるべきでしょう。また、宿題代行業者の利用によって、多少、成績にも影響が及ぶ可能性があり、他の子どもとの間で不公平が生じるなど、道徳に反する面もあるでしょう。
子どもは親のことをよく見ています。親が宿題代行を依頼することで、『面倒なことはお金で解決したらいいんだ』と子どもに思わせてしまい、成長に悪影響を与えるかもしれません。宿題代行サービスを利用するかどうか迷っているのであれば、そうしたマイナス面も十分考慮して、決めるべきではないでしょうか」
(オトナンサー編集部)
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