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激辛料理で体調崩したら自己責任 免責同意書にサインしても店に損賠請求できる?

激辛料理を食べるとき、客が「食後に体調を崩しても自己責任」という免責同意書にサインをすると、飲食店に責任はないように思われがちですが、実際は損害賠償を請求できるとの情報があります。本当でしょうか。

激辛料理で体調が…
激辛料理で体調が…

 飲食店で時折見かける「激辛料理」。体調が万全でない人が大量に食べると、唐辛子の辛味成分カプサイシンが胃粘膜にダメージを与え、胃の痛みや下痢などを引き起こす恐れがあります。そのため、飲食店の中には、激辛料理を注文した客に「激辛料理を食べて体調を崩しても自己責任である」という内容の免責同意書にサインをさせるところもありますが、「サインをしても、客が激辛料理を食べて体調を崩すと飲食店に損害賠償を請求できる」との情報もあるようです。

 その真偽を、芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

「消費者契約法」適用も

Q.激辛料理を注文した客に「激辛料理を食べて体調を崩しても自己責任である」という内容の免責同意書にサインをさせると、法的にはどのような効力が生まれますか。

牧野さん「客が免責同意書にサインすることで、事業者である飲食店と消費者である客の間で飲食サービス契約が成立します。そして、その条件に『激辛料理を食べて体調を崩しても自己責任である』という項目があれば、形式上、客はそれに拘束されることになります」

Q.免責同意書にサインをしたにもかかわらず、客が激辛料理を食べて体調を崩すと飲食店に損害賠償を請求できるとの情報があります。事実でしょうか。

牧野さん「事実です。確かに先述したように、原則として、『激辛料理を食べて体調を崩しても自己責任』という免責同意書に客がサインすると、客は同意書に形式上は拘束されます。

しかし、事業者であるお店と消費者である客との間で締結された飲食サービス契約については、事業者が一方的に定めた消費者に不利な契約条件に対して、消費者を保護する『消費者契約法』が適用されることがあります。同法8条1項には『事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除(中略)する条項』は無効とすると定められています。

そのため、客が免責同意書にサインをしたとしても消費者契約法8条1項が適用されて、免責同意書は無効となります。そこで、民法の原則にのっとり、免責同意書へのサインの有無にかかわらず、事業者(飲食店)が『健康を害さない安全な料理を提供しなければならない』という契約上の義務に違反した、つまり、『債務不履行』となって、客はお店に対し、発生した損害の賠償を請求できると考えられます」

Q.免責同意書にサインがあっても損害賠償が認められるのであれば、免責同意書の意味がないと思います。にもかかわらず、なぜ、飲食店側はサインを求めるのでしょうか。

牧野さん「理由は2つあると思います。1つ目は、免責同意書という仰々しい書類にサインさせることで『辛い食べ物に慣れていないと健康のリスクがある』ことを客に強く認識させ、激辛で健康を害するリスクが高い客を除外するためです。

2つ目は、客がリスクを認識して、あえて挑戦したという証拠を残すためです。客がリスクを認識していれば、法律的には『危険の引き受け』を行ったと解釈され、客の過失の割合に応じて飲食店の損害賠償額が控除される『過失相殺』の根拠になり、損害賠償額が減額される可能性があるからです。

免責同意書で健康のリスクがあると『警告』を受けたにもかかわらず、一定の危険を引き受けて挑戦した客には、過失(注意不足)があったと認められる場合が多いです。民法418条(過失相殺)では『債務の不履行、または、これによる損害の発生、もしくは、拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所はこれを考慮して、損害賠償の責任、およびその額を定める』と規定されています」

Q.もし、損害賠償が認められた場合、どのような損害について賠償が認められるのでしょうか。

牧野さん「激辛料理との因果関係が認められた場合、病院の治療費や通院交通費、慰謝料に加えて、仕事を休めば休業損害も認められるでしょう。万一、後遺症があれば、将来得られなくなった利益の賠償を請求できる可能性もあります。しかし、『激辛料理を食べた後も健康だったが、突発的に死亡した』など因果関係が認めにくい場合は、免責される可能性もあるでしょう」

Q.激辛料理を提供する飲食店は、体調を崩した客から訴えられるかもしれないというリスクを負って、激辛料理を提供するしかないのでしょうか。

牧野さん「飲食店側としては、話題性のために激辛料理をメニューに置いているのだと思いますが、どうしてもリスクは残ります。実際に激辛料理を提供する際は十分に注意すべきでしょう。

免責同意書にサインをさせることで、客に警告を行うとともに、法的な損害賠償責任をできる限り過失相殺で低減させることです。加えて、激辛料理を実際に提供する際には、客から、以前に激辛料理に挑戦して成功体験があったのかなど、事前に聞き取った内容を総合的に判断してから、慎重に激辛料理を提供すべきでしょう」

(オトナンサー編集部)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

コメント

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1件のコメント

  1. 激辛のものを提供することが、もし体調崩れる事がわかっているのであれば、そもそもに作ってはいけないです。
    調理師は、食で、国民の健康、安全、を行う義務があるので、そもそもに責任を果たしていないので、違法ですよ。体調崩す事が分かっていて提供するのは、同意書を作る以前の問題。責任放棄なので、違法です。