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「桜を見る会」前夜祭 費用負担事実なら、前首相の法的責任は?

「桜を見る会」前夜祭を巡る疑惑が再燃しています。疑惑が事実だった場合の、安倍晋三前首相の法的責任について弁護士に聞きました。

「桜を見る会」で記念撮影をする安倍晋三首相(当時)(2019年4月、時事)
「桜を見る会」で記念撮影をする安倍晋三首相(当時)(2019年4月、時事)

 安倍晋三前首相の後援会が首相在任中に開いた「桜を見る会」前夜祭について、費用の一部を安倍氏側が負担していたのではないかという疑惑が再燃しています。安倍氏は国会で「すべての費用は参加者の自己負担で支払われており、(安倍氏の)事務所や後援会の収支は一切ない」という趣旨の発言をしてきましたが、その発言と食い違う可能性を示す報道が出てきたためです。

 費用負担が事実であれば、安倍氏の法的責任はどうなるのでしょうか。また、首相在任中の問題であることで法的責任が重くなる可能性はあるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

政治的、道義的責任は問われても…

Q.「桜を見る会」の前夜祭について、安倍氏側が費用の一部を負担していたことが事実の場合、どのような法的問題があるのでしょうか。

佐藤さん「『桜を見る会』の前夜祭について、安倍氏側が費用の一部を負担していたことが事実だった場合、政治資金収支報告書にその記載がないことから、政治資金規正法違反の罪に問われる可能性があります。同法は、政治が国民の監視や批判の下に行われるよう政治資金の収支を公開し、癒着や政治腐敗を排除できるよう政治資金の授受をただす法律であり、公正な政治を確保することを目的としています(同法1条)。

この目的を達するため、同法は政治団体の収支を記載するよう義務付けており、記載すべき事項を記載しなければ、5年以下の禁錮(刑事施設に拘置されるが刑務作業は強制されない刑罰)、または100万円以下の罰金に処すると定めています(同法25条1項2号)。

共謀の事実が認められれば、会計責任者だけでなく安倍氏自身も罪に問われることになります。なお、裁判で有罪となり、刑に処せられた者は一定期間、公民権(選挙権、および被選挙権)が停止され(同法28条)、その場合、あわせて選挙運動も禁止されます(公職選挙法第137条の3)。

現在、『晋和会』(安倍氏が代表を務める資金管理団体)などの政治団体の収支報告書に収支を記載すべきだったのかどうかなど捜査が進められているところです。さらに、参加者から集めた会費を超えた金額を安倍氏の後援会が補填(ほてん)していたとすると、後援会が後援会員に対し会費との差額分を違法に寄付したことになるのではないかが問題になります。

選挙の公正さを確保することを目的とする公職選挙法は、後援会による選挙区内(安倍氏の場合は山口4区)にある者に対する寄付を禁じており(同法199条の5)、罰則もあります(50万円以下の罰金、同法249条の5)。『後援会の設立目的により行う行事または事業に関する寄付』は例外とされていますが、この場合も祝儀などを渡すことや選挙前の一定期間になされるものは禁止されています。こうした規定に触れるのではないかについても捜査の対象になっていると考えられます」

Q.前夜祭参加者の多くは安倍氏の地元・山口県の支援者で、特に安倍氏の選挙区である山口4区の支援者が多かったようです。公職選挙法で禁じる買収や供応に該当する可能性はないのでしょうか。

佐藤さん「公職選挙法は当選の目的で選挙人(有権者)などに対し、財産上の利益を与えたり、供応接待したりすれば、3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金に処すると定め(同法221条1項1号)、買収や供応を禁じています。安倍氏の地元・山口4区の有権者に対して会費を補填したとなれば、この規定に触れる可能性もあります。

しかし、問題となっている『桜を見る会』の前夜祭が選挙とどう関係していたかについては十分検討しなければならず、買収や供応の罪に問われる可能性は低いのではないでしょうか」

Q.安倍氏は国会で「事務所や後援会の収支は一切ない」という発言をしてきました。この発言について、法的責任を問われることはないのでしょうか。

佐藤さん「ホテルに支払った費用総額の一部を補填したことを安倍氏側が認めたと報じられており、その通りであるならば、安倍氏の国会での発言は事実と異なることになります。

安倍氏が補填の事実を認識していたのかどうか分かりませんが、仮に安倍氏が補填の事実を知りながら、あえて、うその答弁をしていたとしても法的に罰せられることはありません。宣誓した証人が国会で虚偽の陳述をすれば、偽証罪(議院証言法6条)に問われることがありますが、安倍氏の発言は証人としてなされたものではないからです。国会で、うその答弁をすれば、政治的責任や道義的責任は問われるかもしれませんが法的責任は別の問題となるのです。

なお、憲法51条は『両議院の議員は、議院で行った演説、討論または表決について、院外で責任を問われない』と定めていますが、内閣総理大臣が一議員として発言したのではなく、総理大臣として発言した場合には、免責の対象にならないと一般的には考えられています」

Q.仮に安倍氏の法的責任が問われた場合の話ですが、安倍氏が首相の地位にあった時期の事件であることで、一般市民や一議員よりも法的責任が重くなることはあるのでしょうか。

佐藤さん「今回の件について、安倍氏本人の関与はまだ明らかになっていませんが、仮に安倍氏本人の法的責任追及が検討された場合、まず、起訴するかどうかが問題になります。起訴するか否かは検察官の裁量に委ねられており、安倍氏が前首相であったことが重要な考慮要素とされ、起訴による政権政党や政治全体への影響の大きさも踏まえ、不起訴となる可能性もあるでしょう。

仮に起訴され、裁判所が有罪と判断すれば、量刑が問題となります。量刑を決める際、被告の社会的影響力の大きさが考慮されることがありますが、あくまで、量刑は犯行の態様や結果、動機などを重視して決められるものなので、安倍氏の立場が量刑に与える影響はそれほど大きくないでしょう」

(オトナンサー編集部)

佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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