美食探偵ヒロインの小芝風花、ブレークっぽくないブレークは真の演技派の証し
役と自分の適切な距離感
そんな小芝さんを象徴していたのが「あさが来た」です。ヒロイン・あさの娘でありながら、彼女の生き方に反発する長女・千代を演じました。生意気な娘を好演すればするほど、あさのファンからはちょっと憎まれることにもなってしまったものです。
対照的に、千代の友人で、あさに憧れを抱く宜(のぶ)を演じた吉岡里帆さんは好感を得ました。さらに、メガネを外したら美少女だったという、昔の少女漫画みたいなサプライズ効果も相まって、ここから大ブレークを果たします。
また、このドラマの前半で女中役を演じた清原果耶さんもブレークしました。2人のおかげで、小芝さんのブレーク感はやや薄くなったといえます。
しかし、その3年後、「トクサツガガガ」では堂々の主演。特撮ヲタであることを隠して生きる、こじらせOLの悲喜こもごもを絶妙なバランスで演じました。良き仲間と出会い、毒親的存在だった母と対峙(たいじ)する場面では、応援したくなった人も多いでしょう。
思うに、彼女は多部未華子さんや伊藤沙莉さんと同じ系列の女優です。けなげに愛らしく頑張る女子を自然に演じることができ、そういう意味では最高のハマり役でした。
そういえば、「魔女の宅急便」もけなげに愛らしく頑張る女子というキャラ。今回の「美食探偵」もまたしかりです。
そんな彼女は演技と今後について、こう語っています。
「役の切り替えとか大変ですか、とかよく聞かれるんですけど、私は現場入ってからなので。私生活に役が影響するわけでもないので、カットかかったら、ウエ~イ!って小芝に戻るので。(中略)こんな人、近くにいたら怖いなみたいな役もやってみたいですし、意地悪な役とか、いろーんな役やりたいです」(「『トクサツガガガ』一挙再放送直前! お宝映像蔵出しSP」)
これはつまり、「憑依(ひょうい)型」ではないという自己分析です。演技派と呼ばれる人の中には、役にのめり込むあまり、私生活までそれ一色になる人もいますが、彼女はそういうタイプではないのでしょう。素に近い役なら自然に演じられるし、そうでないときも想像力や演技スキル、そして、転換力によってそつなくこなせるということです。
憑依型に“女優っぽさ”を感じる人にとっては、彼女は女優っぽくないのかもしれません。しかし、こういうタイプの方が複数の作品を掛け持ちでき、主役も脇役も自在にこなせそうです。
ではなぜ、それが可能かといえば、一つの推測ができます。彼女は体操やフィギュアをしていたおかげで、体幹の強さを褒められるそうですが、役者としての軸もしっかりと安定している気がします。そのあたりが憑依という形ではなく、役と自分との距離をうまく取りながら演じ分けられることにつながっているのでしょう。ある意味、こうした人の方が、真の演技派なのかもしれません。
なお、オスカーでは、彼女とタイプやポジションの似ていた忽那汐里さんが昨年いっぱいで退社しました。その分、彼女へのオファーが増えるかもしれません。
ここまで、彼女の「ぽくない」要素を見てきましたが、それはまた、揺るぎない小芝風花らしさがあるということです。何か一つの役にハマって終わりではなく、どんな役も自分らしくこなしていく。それでいて、ルックスやキャラはふわりとして常に親しみが持てるところも、安心して見ていられるゆえんです。
今後も、小芝さんはさまざまな役をふわりとこなしながら、ブレークっぽくないブレークを重ねていくことでしょう。
(作家・芸能評論家 宝泉薫)
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