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美食探偵ヒロインの小芝風花、ブレークっぽくないブレークは真の演技派の証し

コロナ禍でも回を重ねる連続ドラマ「美食探偵 明智五郎」でヒロインを演じる小芝風花さん。その強さは、どんな役も自分らしくこなせることだと筆者は解説します。

小芝風花さん(2019年12月、時事)
小芝風花さん(2019年12月、時事)

 いわゆるコロナ禍により、変則的な対応を余儀なくされている今期の連続ドラマシーン。その中にあって、ここまで順調に回を重ね、ファンを喜ばせているのが「美食探偵 明智五郎」(日本テレビ系)です。

 東村アキコさんの同名漫画を原作とするこのドラマは、俳優・中村倫也さん扮(ふん)する美食家の探偵が「食」にまつわる難事件を解決していくというものです。第4話では殺人によって解体された肉片が冷蔵庫に隠されていたり、第5話では給食ハラスメントから小学校で大量殺人が起きかけたり。グロテスクで殺伐とした描写もあり、ギリギリを攻めているという声も上がっています。

 こうした作品には、怖さを中和する存在が必要なもの。その役割を果たしているのが、ヒロイン・小林苺を演じる女優の小芝風花さんです。ワゴン販売の弁当店を営む傍ら、主人公の関わる難事件に巻き込まれ、時には相棒的活躍もします。第5話ではIKKOさんの口調で「どさくさ~」と言ってみせるなど、コメディエンヌぶりでも楽しませてくれています。

 原作の東村さんもツイッターで「風花ちゃんもそのまま苺って感じ!」と絶賛。まさにこの「恋する毒殺サスペンス!!」(公式サイトより)における癒やし的存在なのです。

どの地点で「ブレーク」したのか

 そんな小芝さんについて、ちょっとした議論(?)になっているのが「ブレーク」問題。今回、ついにブレークしたという見方が出ている一方で、昨年、連ドラ初主演を果たした「トクサツガガガ」(NHK総合)がその作品だったという人もいます。

 かと思えば、映画デビュー作にして主演となった「魔女の宅急便」(2014年公開)で既にブレークしていたのだという主張も。また、幅広い層に知られたという意味では、NHK連続テレビ小説「あさが来た」(2015年度下半期)がブレーク作だったともいえます。

 つまり、彼女はいわば「ブレークっぽくないブレーク」を重ねてきた人なのです。劇的かつ一気に飛躍するのではなく、地道に、でも着実に階段を上ってきた、そんな印象です。その歩みは、芸能人としての出発点から始まっていました。

 彼女が芸能界入りしたきっかけは、イオンとオスカープロモーションが開催した「ガールズオーディション2011」でのグランプリ受賞。そのまま、オスカーに所属しましたが、この事務所の代名詞ともいうべき「国民的美少女コンテスト」の出身ではありません。ルックスやキャラも、国民的美少女の元祖・後藤久美子さんから引き継がれてきた派手なラインとは一線を画す感じです。

 そのためか、武井咲さんや剛力彩芽さんのような、最初からドラマやCMでガンガン露出するという売り出し方にはなりませんでした。その分“オスカーっぽくない”イメージで、その堅実なキャリアや演技からは子役出身者のような雰囲気すら漂います。

 これはおそらく、幼少期から器械体操やフィギュアスケートに打ち込んできたことも影響しているのでしょう。習い事に一生懸命打ち込んだ人ならではの真面目さ。ただそれは、芸能人としての地味さにつながる恐れもあります。そのあたりが、難しい役をこなし、高い評価を受けながらも、開花がゆっくりだった一因かもしれません。

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宝泉薫(ほうせん・かおる)

作家、芸能評論家

1964年岐阜県生まれ。岩手県在住。早大除籍後「よい子の歌謡曲」「週刊明星」「宝島30」「噂の真相」「サイゾー」などに執筆する。近著に「平成の死 追悼は生きる糧」(KKベストセラーズ)、「平成『一発屋』見聞録」(言視舎)、「あのアイドルがなぜヌードに」(文春ムック)など。

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