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中退なのに「卒業」…選挙候補者の学歴詐称、どんな法的問題がある?

3月は卒業シーズンですが、留年してしまった人や中退してしまった人もいるかもしれません。後年、選挙の際、大学中退なのに卒業と公表すると、どんな法的問題があるのでしょうか。

候補者が経歴を偽ったら、どんな法的問題がある?
候補者が経歴を偽ったら、どんな法的問題がある?

 3月は卒業シーズンです。

 新型コロナウイルスの影響で卒業式が縮小されたり、開かれなかったりしたところもありますが式の有無にかかわらず、卒業生は卒業証書や学位記を受け取り、次のステップへと踏み出します。一方で残念ながら、単位が足りないなどの理由で留年してしまった人や、中退した人もいるかもしれません。

 学歴は就職などの際、選考要素の一つとなるものですが、国会議員や知事、市長など政治家を選ぶ選挙の際にも職歴などとともに公表され、それを参考にする有権者もいます。

 大学中退なのに卒業と公表してしまった場合や、入ってもいない大学を卒業したと公表した場合、どのような法的問題があるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

虚偽事項公表罪で当選無効の可能性

Q.選挙の際、候補者はなぜ学歴を公表するのでしょうか。

牧野さん「大学や大学院などの高等教育を受けている場合は、候補者が知事や議員として活動するのに必要でふさわしい教育を受けていることについて、有権者に評価してもらうために公表していると思われます。

また、多くのマスコミが『どこにゆかりのある人か、何を学んだか、何に興味があるか、を有権者に情報提供するために必要』などとして取材を求めるため、公表しているという事情もあるようです」

Q.学歴を偽って公表した場合、法的問題はありますか。

牧野さん「公職選挙法235条の『虚偽事項公表罪』にあたる可能性があります。『当選を得または得させる目的をもつて公職の候補者もしくは公職の候補者となろうとする者の身分、職業もしくは経歴(中略)に関し虚偽の事項を公にした者は、2年以下の禁錮または30万円以下の罰金に処する』というものです。

『公職』とは『衆議院議員』『参議院議員』『地方公共団体の議会の議員』『地方公共団体の長(=都道府県知事・市町村長・東京23区の区長)』です(公選法3条)。虚偽事項公表罪で禁錮刑か罰金刑が確定すると、その選挙で当選していても当選は無効となり、議員や知事、市長などの職を失います。

ただし、虚偽事項公表罪の成立には『当選を得または得させる目的をもつて』虚偽事項を公表することが必要です。逆に『当選を得させない目的をもって』虚偽事項を公表した場合は、4年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金(公選法235条2項)という、もっと厳しい罰則を科される可能性があります。

これは、相手候補を落選させる目的で虚偽事項を公表することなどを想定しています」

Q.落選した場合も同様でしょうか。

牧野さん「『当選を得または得させる目的をもつて』虚偽事項を公表した以上は、当落とは無関係に『虚偽事項公表罪』に該当する可能性があります」

Q.学歴を偽った候補者に投票したという有権者が「だまされて投票してしまった。詐欺だ」と主張した場合、詐欺罪は成立するのでしょうか。また、慰謝料などを求めることはできますか。

牧野さん「詐欺罪(刑法246条1項)には『人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する』とありますが、『学歴を偽った候補者に投票した』場合は『人を欺いて財物を交付させた』とはいえないので、基本的には、詐欺罪は成立しません。

慰謝料の請求(精神的な損害に対する賠償請求)についても、確かに精神的なショックを受けたかもしれませんが、それによって精神的な病気になったり、具体的な損害が発生したりしたことを証明できない限り難しいでしょう」

Q.議員や知事になってしばらくしてから詐称が発覚した場合、どのような法的問題がありますか。

牧野さん「議員や知事になってしばらくしてから詐称が発覚しても、公訴時効(虚偽事項公表罪の場合は3年)が経過していない場合は、先述した公職選挙法235条の『虚偽事項公表罪』にあたり起訴される可能性があります。

さらに、役所に提出するために卒業証明書などを偽造していれば、公文書偽造(公訴時効は7年)や私文書偽造(同5年)にあたり起訴される可能性があります」

Q.学歴を偽ったとして法的責任を問われた事例を教えてください。

牧野さん「2003年の衆院選で福岡県内の選挙区で当選した男性が、公表していた『ペパーダイン大学卒業』という学歴が詐称であるとの容疑で公選法違反容疑で告発され、捜査が進められましたが、最終的には、2004年10月、福岡地検は起訴猶予処分としています」

(オトナンサー編集部)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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