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介護は“してあげる支援”に偏りすぎている…「自立支援」に立ち返るための「手を後ろに回したケア」とは何か

介護の本来の定義が忘れられ、“してあげる支援”に偏りすぎている――。高齢者に関する研究活動を行う筆者の見解から、「介護」のあるべき形について考えます。

「介護とは自立支援」が忘れられている?(画像はイメージ)
「介護とは自立支援」が忘れられている?(画像はイメージ)

 優れた高齢者住宅では、入居してからどんどん元気になる人や、機能が回復していく人が少なくありません。例えば、「車いすや、つえを使っていた人が普通に歩けるようになる」「やわらかいものしか食べられなかった人が、カツ丼を食べられるようになる」「買い物も掃除もできずヘルパーさんに任せっきりだった人が、普通にできるようになった」など、そんな例は枚挙にいとまがありません。

 私たちは「高齢になると身体的に衰えていく一方で、元に戻ることはない」と考えてしまいがちですが、実は全くそうではないわけです。

 問題は、若い人たちも高齢者自身も「年を取ると衰える一方だ」と思ってしまうことであると、高齢者に関する研究活動を行う筆者は考えます。そうすると、若い人はお年寄りを「弱者」と見なしてかばおう、守ろうとするし、高齢者は若い人に依存しようとする姿勢が強くなります。実際は、やればできるようになるのですが、やらないからどんどんできなくなっていきます。やらないことが原因で、余計に衰えていくわけです。もし両者が「やればできる」と思っているなら、そうはなりません。よい高齢者住宅を見れば明らかです。

介護とは、そもそも「自立支援」

 介護の世界には「リエイブルメント」という、「再びできるようになるための支援」を意味する言葉があります。厚生労働省が発表した資料の中には、「“してあげる支援”から“元の生活を取り戻す支援”へ」という分かりやすいフレーズで紹介されています。

「リエイブルメント」の特徴は3つあります。1つ目は、支援の期間が短いこと。その資料では山口県防府市が実施した例が紹介されていますが、基本的には週に1度、3カ月間という短期集中の支援です。セルフマネジメントができるようになるための期間と位置づけ、健康や機能の維持・回復に関する目標を明確にし、手段と計画を立て、それを本当に実行できるようになるためのサポートをしていく期間です。

 2つ目は、面談が中心で、個別性の高いサービスであること。当然ながら、健康状態や問題がある箇所やその原因は、人それぞれです。生活習慣が悪化しているなら、そうなった経緯や背景も人によって違います。支援する側は、面談を通してそれらの内容を詳しく知り、その人にとって最適と思われるアドバイスを行っていきます。パーソナル・トレーナーやビジネスコーチングに似たアプローチといってよいでしょう。

 そして3つ目は、地域とのつながりや社会参加の機会を提供・提案すること。3カ月の支援期間が過ぎても、本人がいい生活習慣を続けていくためには、地域社会の中に役割を得たり、楽しみの機会を見いだしたりすることが重要であり、支援者はその人に合った地域とのつながり方を提案し、自然な形で地域参加できるよう導きます。

 そもそも、介護保険法第一条の「目的」には、「(要介護状態にある人が)尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう」とあります。これを読むと、「リエイブルメント」などという言葉がなくても、もともと「介護とは自立支援である」と定義されているわけですが、現状、このことはほとんど忘れられ、“してあげる支援”に圧倒的に偏っているように思えます。

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川口雅裕(かわぐち・まさひろ)

NPO法人「老いの工学研究所」理事長、一般社団法人「人と組織の活性化研究会」理事

1964年生まれ。京都大学教育学部卒。リクルートグループで人事部門を中心にキャリアを積む。退社後、2012年より高齢者・高齢社会に関する研究活動を開始。高齢社会に関する講演や執筆活動を行うほか、新聞・テレビなどのメディアにも多数取り上げられている。著書に「年寄りは集まって住め ~幸福長寿の新・方程式」(幻冬舎)、「だから社員が育たない」(労働調査会)、「チームづくりのマネジメント再入門」(メディカ出版)、「速習! 看護管理者のためのフレームワーク思考53」(メディカ出版)、「なりたい老人になろう~65歳から楽しい年のとり方」(Kindle版)、「なが生きしたけりゃ 居場所が9割」(みらいパブリッシング)など。老いの工学研究所(https://www.oikohken.or.jp/)。

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