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アルコール摂取後の「ゴーカート」乗車 実は重罪? 弁護士が解説する法的リスク

酒を飲んだ後にゴーカートに乗車した場合、法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。弁護士に聞きました。

飲酒後にゴーカートに乗ると法的責任を問われる?
飲酒後にゴーカートに乗ると法的責任を問われる?

 遊園地やテーマパークなどでは、簡易エンジン付きの小型自動車である「ゴーカート」の体験サービスを実施しています。施設側のルールによっては、小さな子どももゴーカートに乗ることができるため、親子で楽しむ人は多いのではないでしょうか。

 ところで、20歳以上の人が遊園地の内外の飲食店などで酒を飲んだ後、ゴーカートに乗ってしまった場合、法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

人身事故を引き起こすと処罰の可能性

Q.20歳以上の人が遊園地の内外の飲食店などで酒を飲んだ後にゴーカートに乗った場合、「酒気帯び運転」「酒酔い運転」として処罰される可能性はあるのでしょうか。

牧野さん「道路交通法65条では『何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない』と定められており、酒気帯び運転が禁止されています。

道路交通法上の『運転』とは、『道路において、車両または路面電車(以下『車両等』という)をその本来の用い方に従って用いること』(同法2条17号)を言い、『道路』とは、『道路法に規定する道路、道路運送法に規定する自動車道および一般交通の用に供するその他の場所』(同法2条1号)を指します。

ゴーカートのコースは、基本的に公道ではなく私有地にあるため、一般交通の用に供するその他の場所とは言えません。そのため、原則として、飲酒後にゴーカートを運転した場合、道路交通法上の『酒気帯び運転』『酒酔い運転』の行為そのものには該当しないことになります」

Q.では、飲酒後にゴーカートを運転しても法的責任を問われないということでしょうか。

牧野さん「ゴーカートの飲酒運転そのものに対しては、法的責任は発生しません。ただし、ゴーカートの飲酒運転が原因で人身事故を起こした場合は、道路外であっても、法的責任を問われる可能性があります。

例えば、自動車運転死傷処罰法(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律)で定められている危険運転致死傷罪や過失運転致死傷罪に該当する可能性があるほか、被害者に対しては、運転者の過失(飲酒)が認められ、民事で民法709条の不法行為に基づき、損害賠償責任を負う可能性があります。

危険運転致死傷罪の処罰対象となる行為は、『アルコールまたは薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為』(自動車運転死傷処罰法2条1号)、『その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為』(同法2条2号)などです。これらの行為が原因で人にけがを負わせた場合の法定刑は15年以下の懲役、人を死なせた場合の法定刑は1年以上の有期懲役です。

過失運転致死傷罪で処罰の対象となるのは、自動車の運転上必要な注意を怠り、人を死傷させた行為(自動車運転死傷処罰法5条)で、法定刑は7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金です。

このほか、道路交通法103条では、私有地など道路以外の場所における死傷事故、いわゆる『道路外致死傷』があった場合には免許の停止や取り消し処分(行政処分)が可能と規定されています」

Q.ゴーカートの飲酒運転が原因で人にけがを負わせたり、人を死なせてしまったりしたとします。施設側が事前に「飲酒後のゴーカートの乗車はご遠慮ください」などと呼び掛けていた場合と呼び掛けていなかった場合とで、法的責任の重さに違いはあるのでしょうか。

牧野さん「飲酒運転が原因で人身事故を起こした場合、施設側が『飲酒後のゴーカートの乗車はご遠慮ください』などと事前に呼び掛けていた場合と、呼び掛けていなかった場合とでは、該当する基本的な法的責任の種類は変わりません。

ただ、飲酒運転をしないよう呼び掛けていた施設で飲酒運転による事故を引き起こした場合、呼び掛けていなかった施設での事故に比べて、危険運転致死傷罪の『危険』の状況が認められる可能性のほか、過失運転致死傷罪の『過失』の状況が認められる可能性が高まります。

さらに民事の損害賠償責任でも過失割合(事故への貢献度)が大きくなり、損害賠償額が増額される可能性があります」

Q.ゴーカートに関する事故の判例について、教えてください。

牧野さん「遊戯用のゴーカートの事故ではありませんが、過去にゴルフ場でテレビの中継用カートが暴走し、4人が重軽傷を負う事故が発生しており、カートに追突されたゴルファーが、ゴルフ場の経営会社に損害賠償を求めた判例があります。

名古屋地裁は、ゴルフ場側が危険を知らせる看板の設置を怠ったことを理由として、民法717条の『土地の工作物等の占有者および所有者の責任』があるとして、ゴルフ場の経営会社に約141万円の支払いを命じました(1995年10月25日)」

(オトナンサー編集部)

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牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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