ただの腹痛だと思ったのに「虫垂炎」だった…手術しないと治らない? どんな病気か外科専門医に聞く
「虫垂炎」の主な症状や治療法について、外科専門医に聞きました。
「虫垂炎」という病気を聞いたことがある人は多いと思います。腹痛が原因で病院を受診したところ、虫垂炎と診断されるケースもあるようです。
そもそも、虫垂炎とはどのような病気なのでしょうか。再発する可能性はあるのでしょうか。主な症状や治療法などについて、東京外科クリニック(東京都千代田区)院長で、外科専門医の大橋直樹さんに聞きました。
胃の不快感、腹痛が生じる
Q.そもそも、虫垂炎とはどのような病気なのでしょうか。盲腸と呼ばれることもありますが、同じ病気なのでしょうか。
大橋さん「『虫垂炎=盲腸』と考えていただいて問題ありません。ただ、厳密には虫垂炎が正しく、盲腸はいわゆる俗称です。盲腸は、大腸の先頭部分、つまり、肛門から最も遠い大腸を指す解剖学的呼称であり、病気の名前ではありません。この盲腸だけに炎症が発生することは滅多にありません。
虫垂はこの盲腸の付属器官で、太さ約7ミリ、長さ約8センチの細長い管腔(くう)状の臓器です。ここに何らかの理由で炎症が発生すると、虫垂炎を発症します。虫垂はほとんどの場合、右の下腹部に存在するため、この部分が痛くなり、微熱を伴うのが主症状です。
私も患者さんに分かりやすく説明するため、診療時に『盲腸』と言うことがありますが、医師でも病気の本質を誤認していた時代の呼称なので、抵抗があります。虫垂炎という正式な名称が普及することを願っています」
Q.急に虫垂炎を発症するケースがよくあると聞きますが、本当なのでしょうか。
大橋さん「本当です。虫垂炎を急に発症するケースは、珍しいものではありません。激しい腹痛が生じるため、痛みを感じた本人や周囲の人が救急車を呼ぶケースは、比較的多いです。
一方、上腹部、つまり胃の辺りの不快感から始まり、次第にそれが右下腹部に移り、痛みとしてはっきりしてくるというのも典型的で、はっきりと症状が現れるのに数日かかることもあります。そのため、診断がなかなかつかなかった症例もあります。
治療が遅れると炎症が広がり、重症化することがあります。軽症の場合は通院治療で済むこともありますが、1週間近く、場合によってはそれ以上の入院期間を要することもあります。また炎症が激しいと、虫垂が壊死し破裂することで腹部全体が炎症を起こす『腹膜炎』を発症します。現代の日本においては随分少なくなりましたが、虫垂炎の死亡例もあります」
Q.虫垂炎と一般的な腹痛は何が違うのでしょうか。
大橋さん「虫垂炎の場合、腹膜炎を併発していない限り、その痛みは右下腹部に限られます。先述のように、最初は上腹部の不快感から始まることもありますが、症状が進行すると、右下腹部が何もしなくても痛くなるほか、押すと痛い『圧痛』、しばらく押したまま離すと痛い『反跳圧痛』という症状が顕著になります。
これらの症状が右下腹部にそろうと、虫垂炎を第一に疑うことになります。症状が似ている病気もあるため、診断確定には画像検査が有用です」
Q.では、虫垂炎によく似た病気はありますか。
大橋さん「よく似た症状であるため、区別が必要となる病気を『鑑別疾患』といいます。虫垂炎の鑑別疾患は、結腸憩室炎や回腸末端炎、腸間膜リンパ節炎、メッケル憩室炎など多岐にわたります。女性であれば子宮外妊娠などの内性器疾患も鑑別に入れます。胆のう炎や十二指腸潰瘍穿孔(せんこう)など上腹部の疾患も右下腹部にまで痛みが及んでいれば、身体所見だけでは鑑別が難しくなります。
現代では画像診断のツールが発達しています。特にコンピューター断層撮影(CT)を施行することが客観性もあり、確実です。詳細な問診でも、ある程度の目星をつけることはできます。
虫垂炎では嘔吐(おうと)や食欲不振なども起こりますが、『腹痛→嘔吐、吐き気(症状が出ない場合もあり)→発熱』の順で症状が現れるので、この順が逆であれば虫垂炎の可能性は考えにくいということになります。なお、一般的には、下痢は主たる症状ではなく、あっても軽度です。
『中年男性』『軽度肥満』のほか、高熱な割に重篤感がない右下腹部の鑑別の第一は、結腸憩室炎です。高熱を伴っている虫垂炎は、消耗し切った印象が強いです。
いずれにしても、これらの鑑別疾患も初期治療は抗生物質投与のほか、安静や食事制限なので、同じような対応で多くは問題ないのですが、根治的な治療を検討する場合、この時点での確定診断が画像検査で行われていることが望ましいです。炎症が鎮まってから画像を撮っても、症状があった当時の状態は再現できないからです。
また、私の患者さんの場合、虫垂炎とがんを併発していた病例がありました。虫垂を切除することで初めて発見できたわけで、やってよかったということになりますが、がんに対する術式としては不十分なため、再手術による追加切除を行いました」
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