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コインランドリーに放置された“衣類”、勝手に取り出すと犯罪? 長時間放置した行為は? 弁護士に聞く

コインランドリーの洗濯機に衣類を長時間放置した場合のほか、洗濯機に放置されている衣類を勝手に取り出した場合、それぞれ法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。弁護士に聞きました。

コインランドリーで洗濯済みの衣類が洗濯機に長時間放置されていることも
コインランドリーで洗濯済みの衣類が洗濯機に長時間放置されていることも

 コインランドリーに行くと、洗濯済みの衣類が洗濯機に長時間放置されていることがあります。この場合、他の利用客が洗濯機を使えなくなるため、迷惑行為に該当すると言えますが、放置した人は法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。一方、中に入っている衣類を勝手に取り出して洗濯機を使った場合はどうなるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

営業妨害に該当する可能性も

Q.コインランドリーの利用客が衣類を長時間、洗濯機に放置した場合、法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。

牧野さん「故意、過失を問わず、悪質な場合は、民事上の営業妨害(不法行為)に問われ、コインランドリーの運営者に対する損害賠償責任を負う可能性があります。その場合、不当に占拠した時間分の売り上げ相当額を支払わなければならなくなる可能性があるでしょう。

例えば、利用客が洗濯済みの衣類を洗濯機に1時間放置した場合、洗濯機が1時間稼働していれば運営者が得られたはずの売上額を支払わなければならなくなる可能性があるでしょう。

一方、刑法の威力業務妨害罪については、運営者に対してよほどの悪意を持って行われた悪質な行為でない限り、成立しないでしょう」

Q.コインランドリーの利用客や運営者が、施設内の洗濯機に入っている他人の衣類を勝手に取り出した場合、窃盗罪や器物損壊罪などに問われる可能性はありますか。

牧野さん「そもそも、窃盗は、他人の占有下にある物を盗む行為です。コインランドリーで利用客や運営者が洗濯機から他の利用客の衣類を取り出す行為は、その客が占有している物を奪うのではなく、置き場所(保管場所)を変えることになるため、占有を侵害することにはならないでしょう。そのため、他に意図がなければ、原則として窃盗罪に該当しないでしょう。

利用客に他人の衣類を盗む意図があったものの、置き場所を変えた後に改心して盗まなかった場合は、盗む意図で占有を移転したため、窃盗罪の既遂に問われる可能性がありますが、そうした内心を証明することができなければ、窃盗罪の成立は難しいでしょう。

器物損壊罪の『損壊』は、物の機能を害する行為が該当します。利用客が洗濯済みの衣類を知らない他人に触られて『気持ち悪い』と感じた場合、物の機能を害する行為だと解釈できるかもしれませんが、利用客が洗濯機を利用するために他の客の衣類に触れることが、社会的に許容される範囲の行為と考えられるのであれば、物の機能を害するとまでは言えないため、器物損壊罪の成立は難しいでしょう。

コインランドリーの利用客が、洗濯機に長時間放置されている他の客の衣類を取り出せるよう、運営者はあらかじめ利用規約で利用客に同意を得ておく必要があるでしょう」

Q.では、コインランドリーの運営者が、施設内に「洗濯機に衣類を長時間入れっ放しにした場合、運営者やお客さまが取り出すことがあります」という内容の張り紙を掲示しただけでは、不十分ということでしょうか。

牧野さん「利用規約として、『衣類を取り出すことがある』という内容の張り紙を掲示しただけでは、運営者が契約の申し込みをしたに過ぎず、それに対する利用客の承諾がないため、契約として合意が有効に成立したとは言えないでしょう。

そこで、契約内容をコインランドリーの利用規約に含めておき、利用客に利用規約に承諾してもらう形式か改正民法の定型約款の有効要件を満たす形式を基本的に採用すべきでしょう。

定型約款の要件を満たすには、『不特定多数の利用者を相手に行う取引』『内容の全部または一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの』という内容のほか、形式的には、約款を契約内容に含める旨の通知などが必要です。

ただし、利用規約と『衣類を取り出すことがある』などの注意点を同時に掲示することは、利用客に注意を喚起することになるため、意味はあると思います」

Q.洗濯機内に放置されている他の客の衣類を取り出したときに落として汚してしまった場合、取り出した人に賠償責任が生じる可能性はありますか。

牧野さん「洗濯済みの他の客の衣類を取り出したときに落としてしまい汚した場合、取り出した人は衣類の持ち主に対して、民事上の不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。具体的には、洗濯で落ちる程度の汚れであれば再度洗濯するためにかかる費用、洗濯では落ちない汚れが付いた場合は、当該の衣類の販売相当額をそれぞれ負担する必要があります。

一方、器物損壊罪については、意図的に汚した場合でなければ、基本的に成立しません」

 コインランドリーで衣類を長時間放置すると、営業妨害に該当する可能性があるということです。洗濯が終わった衣類は、すぐに持ち帰るようにしましょう。

(オトナンサー編集部)

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牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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