東映ビデオ・佐藤現P、オリジナル映画の魅力は「自由に追求できる醍醐味」 「犬猿」で感情リアルに
「百円の恋」「ビジランテ」などを手がけてきた、東映ビデオの佐藤現プロデューサー。相性の悪い2組の兄弟姉妹の物語「犬猿」も現在公開中ですが、プロデューサーの仕事や原作のないオリジナル映画の魅力について聞いてみました。
映画「百円の恋」や「ビジランテ」などの作品に携わってきた東映ビデオの佐藤現プロデューサー。公開中の映画「犬猿」は、印刷会社の営業マン金山和成(窪田正孝さん)と粗暴な兄・卓司(新井浩文さん)、容姿にコンプレックスを持っているが仕事や家事は得意な幾野由利亜(江上敬子さん)と、美人だけど要領が悪い妹・真子(筧美和子さん)という、相性の悪い2組の兄弟姉妹が相手に対する複雑な感情を爆発させる、吉田恵輔監督のオリジナル作品です。
オトナンサー編集部ではこのほど、佐藤プロデューサーにインタビュー取材。プロデューサーの仕事や原作のないオリジナル映画の魅力、難しさなどを聞きました。
良いものを作ると同時に、結果に責任
Q.大変初歩的な質問ですが、プロデューサーとはどのようなお仕事なのでしょうか。
佐藤さん(以下、敬称略)「映画のプロデューサーは、一から十まで全体を統括しコントロールする立場です。映画の企画も千差万別で、原作のあるものだと原作権を獲得することから始まり、原作がないオリジナル作品だと監督や脚本家とアイデアを出し合って企画書や脚本を作ることから始まります。多くの場合、脚本は脚本家と監督とプロデューサーの3者で打ち合わせを重ねながら作っていきます。その後、キャスティングをしてスタッフを決め、予算内でどのように製作するか話し合いながら、撮影や編集などを進めていきます。一方で配給会社と協議して公開規模を決めたり、宣伝マンと協議して宣伝の内容を決定したりしていきます。映画を生み出す『ゼロ』の部分から皆さんに届けるまで、プロジェクトを引っ張っていく存在だと思っています」
Q.全体を見てバランスの調整をしていくようなイメージでしょうか。
佐藤「調整事はすごく多いですね。ただ調整するだけではなく、クリエイティブな部分でどういう映画が面白くて、どういう映画がお客さんに求めれられているのかを考えつつ、監督や脚本家をはじめとする、その道のプロフェッショナルなスタッフと一緒に映画を作って送り出していく仕事です。基本、監督や脚本家などのクリエイターは作品を良いものにするために注力すべきだと思います。一方で、プロデューサーはそれがどういうターゲットに受け入れられるのか、常にお客さんの顔を思い浮かべないといけない。良いものを作り出すと同時に、結果に責任を負わなければならないという視点が加わります」
Q.オリジナル作品の魅力や存在意義を教えてください。
佐藤「何百万部も売れている人気コミックやベストセラー小説が次々に映画化されています。それはそれで、見たい人がいるから映画化されるわけですから否定する気は全くありません。でも、そういう作品ばかりに偏りすぎると日本映画という文化は細っていくのではないかとも感じます。私はできるだけ作家の顔が見えるような映画を作っていきたいと思っていて、『犬猿』の吉田恵輔監督は愚かでも愛すべきリアルな人間模様を描ける稀有な才能のある人だし、『百円の恋』は足立紳という脚本家と二人三脚でやってきた武正晴監督の人生が投影されている作品なんですよね。入江悠監督の『ビジランテ』も入江監督が生まれ育った場所の閉塞感だったり悲哀だったりが投影されている映画だと思います。作家の顔が見える作品が減っていくと、それは悲しいなと思います。でもそういうオリジナル作品は、結果を出していかないと増えていきません。需要があるから供給があるので『犬猿』みたいな作品を多くの方に見てもらえるように頑張らないと、と思っています。ありがたいことに『犬猿』は『Filmarks』でも初日満足度1位になりました。有名原作の映画に負けず劣らず面白いという評価を頂いているので、そういう作品をヒットさせるべく私たちプロデューサーが努力せねばと思います」
Q.オリジナル映画を作る際の困難は何でしょうか。
佐藤「出資する側からすれば、当然ベストセラー原作のあるものはお客さんがどれだけ入るかの指標になるので出資しやすいですが、オリジナル作品はお金が集まりにくいです。そのため予算が絞られてくる現状はあると思います。作品の認知もスタート地点で出遅れているので宣伝マンも苦労します。でも、一方でオリジナル作品は、主人公の性別だって物語の結末だっていくらでも変えられるし、映画にとってこうした方が面白いだろうということを自由に追求できる醍醐味があります。制約なしに映画として純度が高いものを作れるし、お客さんとしても先が読めない楽しみがあると思います。あと何もないところから脚本を書くのと、原作のあるものを脚色するのとでは、脚本家の仕事内容が大きく違ってくると思います。米アカデミー賞では『脚本賞』と『脚色賞』で明確に分けられていますが、日本にもそういう区別のある映画賞があってもよいと個人的には思います」
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