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“華の93年組”菅田将暉は大河「鎌倉殿の13人」で何を成し遂げる?

NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で源義経役を務めている菅田将暉さん。1993年生まれの同世代の役者たちとの関係性に触れつつ、俳優としての魅力に筆者が迫ります。

菅田将暉さん(2021年6月、時事通信フォト)
菅田将暉さん(2021年6月、時事通信フォト)

 大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(NHK総合)で、キーパーソンの1人となる源義経を好演中の菅田将暉さん。キャスト発表時に大きな注目も集めました。菅田さんの示す新たな義経像は、視聴者の予想を裏切る形で、鮮やかにみずみずしく具現化されました。

 1993年に生まれ、今年29歳となった菅田さんは、同作で私たちにどんな記憶を残すのか。「鎌倉殿の13人」の内容に触れながら“華の93年組”の1人である菅田さんの立ち位置を振り返ってみます。

クレイジーな義経?

 菅田さんは、放送中の主演月9ドラマ「ミステリと言う勿れ」(フジテレビ系)での活躍もさることながら、並行して「鎌倉殿の13人」にも出演。同作で演じているのが、少しだけ性格に“難アリ”と見える天才戦略家の義経です。

 2月27日に放送された第8話では、菅田さん演じる義経の主な出番が2カ所ありました。一つはウサギを仕留め食べようとするシーン、もう一つは里芋汁を食べるシーンで、どちらも登場時間は短かったのですが、強烈なインパクトを与えました。

 ウサギを仕留めるシーンでは、「ウサギ汁にしよう!」とはしゃぐ姿を見せました。しかし、横からわいた男に「それは俺のウサギだ」と難癖をつけられました(本来は正当な抗議なのですが…)。

「より遠くに矢を飛ばした方がウサギを手に入れられる」――そんなゲームを持ちかけた義経は、ひょうひょうとした様子で相手をだまし討ちに。さも当たり前のように男に向けて矢を放つ姿は、現代の言葉でいう“サイコパス”に該当するものでした。

 邪魔で仕方ないから矢で始末したというよりは、その方が楽に利益を手にできると思ったから“そうした”という印象でした。戦場ではびこる天才戦略家の片りんは、すでにこの時点で見え隠れしているように思えます。

 続いて、仲間と共に里芋汁を食べるシーンで義経は、ツルツル滑る里芋を箸ですくうのに苦労している仲間たちに示すように、芋に箸を豪快に突き刺して「うまい!」と食べて見せました。

 その後、間もなくして「何の香りだ? 潮の香りか?」と言いながら、海を見たいと突っ走っていきました。目的地を目指し進んでいる最中であっても、己の欲望が最優先とばかりに自由気ままに振る舞う姿は、今までにありそうでなかった義経像ではないでしょうか。

 この少々クレイジーな義経を表現できたのは、やはり菅田さんの“職人的観察眼”によるもの。表面的には人当たりがいいものの、腹の底では何を考えているか分からない役柄をやらせたら群を抜いてうまいのです。直近では、2019年に放送されたドラマ「3年A組-今から皆さんは、人質です-」(日本テレビ系)で演じた柊一颯や、2020年放送の「MIU404」(TBS系)で演じた久住などが挙げられます。

「鎌倉殿の13人」で新たな義経像を体現しつつある菅田さん。本格的な出番は3月6日放送の第9話「決戦前夜」からとなりそうです。

“華の93年組”における立ち位置

 菅田さんの映画界における活躍や存在感も、同年代俳優と比べて引けを取りません。菅田さんと並び、同い年の神木隆之介さん、仲野太賀さん、有村架純さんらを“華の93年組”と称する向きもあります。

 2021年の菅田さんは多岐にわたる映画作品に出演。今年9月にも「百花」の公開が控えています。原田美枝子さんとのダブル主演で世に送られる、川村元気さんの原作小説を実写化した作品で、少しずつ記憶を失っていく祖母との2人暮らしに焦点が当てられ、まだまだ新境地に挑戦する菅田さんの攻防が見られそうです。

 さて、“華の93年組”、映画――これらのキーワードを並べて思い浮かべるのは、菅田さんと有村さんが共演した映画「花束みたいな恋をした」ではないでしょうか。菅田さん演じる麦と、有村さん演じる絹の交流を描いた甘酸っぱい恋愛映画です。

 飲み会帰りで終電を逃し、それをきっかけに付き合い始め、就職した後に価値観が変わり、すれ違う恋人同士が描かれました。ストーリーを言葉にすると陳腐に思えるかもしれませんが、菅田さんと有村さんがこの世界観を実現させたことにより、一種の芸術に昇華しました。

 この映画を見て改めて思うのは“華の93年組”における菅田さんの存在は「避雷針」に近いということ。それぞれのファンが、映画やドラマファンが、世間が、彼らに向ける評価を一手に引き受けるような存在、とでもいうのでしょうか。

 菅田さんの背景には、自分一人に限らない、同世代俳優たちの仕事、姿勢に向けられる評価を甘んじて受ける“覚悟”が見受けられます。

「花束みたいな恋をした」に対しても、賛否両論の評価が雨のように降り注ぎました。大絶賛も酷評も堂々たる構えで受け止めたことに対して「あっぱれ!」と伝えたいという思いです。避雷針のように逃げも隠れもしない菅田さんの存在は、同年代俳優の中でも頼もしいものとなっているはずです。

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北村有(きたむら・ゆう)

フリーライター

邦画・国内ドラマ関連のコラム記事やレビュー記事、インタビュー記事を手掛けるフリーライター。主な執筆媒体は「cinemas PLUS」「RealSound映画部」「ROOMIE」「TV LIFE」「Workship MAGAZINE」など。ツイッター(https://twitter.com/yuu_uu_)

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