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急病でも…? 「ウレタンマスク」「布マスク」の人の診療拒否、問題はない?

新型コロナウイルスの施設内での感染拡大防止を理由に「ウレタンマスク、布マスクの人は診療を断ることもある」旨、告知している医療機関があります。問題とはならないのでしょうか。

マスクの素材で診療拒否できる?
マスクの素材で診療拒否できる?

 コロナ禍が続く中、洗って繰り返し使えるウレタンマスクや布マスクが人気ですが、施設内での感染防止を理由に、来院時に不織布マスクの着用を求める医療機関もあります。ウレタンマスクや布マスクは不織布マスクよりも飛沫(ひまつ)が飛散しやすいとされているためで、「(患者が)ウレタンマスクや布マスクを着用していた場合、診療を断ることもある」とホームページで告知しているケースもあります。

「急病で来たために、たまたま不織布マスクをしていなかった」「肌が弱く布マスクを使っている」といったケースも想定されますが、医療機関は「ウレタンマスクや布マスクを着用している」という理由で診療を断ってもよいのでしょうか。医療ジャーナリストの森まどかさんに聞きました。

厚労省「素材による扱いの差はない」

Q.そもそも、医療機関が患者の診療を断ってもよいケースはあるのでしょうか。

森さん「医師法19条1項に『診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない』とあります。いわゆる、『医師の応召義務』といわれるものです。『正当な事由』に該当するかどうかは、医師の職業倫理や社会一般での常識、道徳観に基づいて判断されますが、例えば、『以前、診療費の不払いがあった』ことは正当な事由にはなりません。『患者の年齢、性別、人種・国籍、宗教』によって診療を拒否することも正当な事由にはなりません。

一方、『医師が病気療養中』『専門性や診療能力、設備状況などから事実上診療が不可能である』『言語が通じないという理由で診療行為が明らかに困難である』『診療時間外であり、かつ緊急対応が必要ない病状と判断される』などは診療を断る正当な事由と考えられます」

Q.医療施設の中には「施設内では必ず、不織布マスクを着用してください。ウレタンマスクや布マスクを着用していた場合、診療を断ることがあります」といった内容の告知をしている施設もあります。まず、「マスクをしていない人」について、診療を拒否できるか教えてください。

森さん「マスク着用が新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために一定程度有効であることは、現在、社会の共通認識として知られています。体調が優れない人に加え、感染した場合に重症化リスクが高くなる基礎疾患のある人や高齢者、妊婦などが同じ空間に集まる医療機関では、病棟、外来を含む院内すべてで感染防止策の徹底が重要です。その観点から、来院時にマスク着用を求めることは現時点では当然のことといえるでしょう。マスク着用を拒否する患者については、その理由によっては診療を断ることも許されると思います」

Q.では、ウレタンマスクや布マスクを着用している人の診療を拒否することはできるのでしょうか。

森さん「妊婦が通院する産婦人科や、発熱患者などコロナ疑い患者を診療している医療機関などでは、吐き出し飛沫、吸い込み飛沫ともに防ぐ効果が高い不織布マスク着用による、一段高いレベルでの対策を求めることは方針として理解できます。また、札幌市では昨秋、職場や家庭などで感染者が出た場合の『濃厚接触者』の判断基準にマスクの素材も問うという独自の基準を設け、保健所が不織布マスク着用を推奨しました。他にも各地で、不織布マスクの着用を推奨する自治体が出たことで、その地域の医療機関が布マスクやウレタンマスクでの診療を断る動きにつながった一面もあるようです。

厚生労働省健康局結核感染症課に尋ねたところ、『最終的には保健所の判断だが、国としての“濃厚接触者”の定義においては、マスクの素材による扱いの差は設けていない』との回答でした。感染対策としてのマスクの素材については『素材によって性能に差があることは確かなものの、同じ素材でも性能には差があるので“不織布だから”“ウレタンだから”と特定の素材をひとくくりで区別するのは適当とはいえない。着用の仕方によっても大きな差が出るため、感染防止策の強化としてルール化するならば、もっと総合的な判断が必要ではないか』とも話していました。患者が着用するマスクの素材によって診療を断ることが妥当かどうかは難しい判断です。

例えば、先ほど、マスク不着用のケースについて話しましたが、皮膚の病気や感覚過敏など健康上の理由でマスクができない人もいます。特別な理由があってマスクを着用できない場合は、待合室で他の患者と接触しないようにしたり、診察室で会話をする際に距離を確保したり、オンライン診療を提案したりなどの工夫もできるのではないでしょうか。同様に、ウレタンマスクや布マスクの人についても、素材の違いだけで拒否するのではなく、待合室で不織布マスクの人から少し離れた場所に座ってもらう、医療機関側で不織布マスクを配布・販売するなどの対応が考えられると思います」

Q.「ウレタンマスクだから」「布マスクだから」という理由で医療機関が診療を断ると、その後、容体が急変するという心配はないのでしょうか。

森さん「個別の具体的なケースについては状況によって異なりますが、病状が深刻な患者や緊急対応が必要な患者が来院した場合、多くの医療機関はマスクの素材を理由に診療を断らず、直ちに診療を開始すると思います」

Q.皮膚炎などの理由で不織布マスクを避け、ウレタンマスクや布マスクを使っている人もいると思います。ウレタンマスクや布マスクを新型コロナ対策として使う場合の注意点を教えてください。

森さん「布マスクやウレタンマスクは飛沫をカットする性能が不織布マスクより劣ることが、スーパーコンピューター『富岳』のシミュレーションでも示されましたが、一般的な暮らしの中での新型コロナ対策として使用するには問題ないとされています。『3密』といわれる『換気の悪い密閉空間』『多く集まる密集場所』『間近で会話や発声をする密接場面』では感染リスクが高くなり、より注意が必要となるため、ご自身で対策を強化する必要を感じるようであれば、不織布マスクを上に重ねる、いわゆる『二重マスク』という方法もあります。

また、マスクの着用にあたっては着用の仕方に注意することが大切です。着ける前に手を清潔にし、サイズが合っていなかったり、耳に掛けるひもが緩くなったりしていないか確かめた上で、鼻と口と顎をしっかり覆って、ずれないように着用しましょう。洗濯を繰り返すうちに性能が劣化する可能性がありますので、メーカーの注意書きに従って使用してください」

(オトナンサー編集部)

森まどか(もり・まどか)

医療ジャーナリスト、キャスター

幼少の頃より、医院を開業する父や祖父を通して「地域に暮らす人たちのための医療」を身近に感じながら育つ。医療職には進まず、学習院大学法学部政治学科を卒業。2000年より、医療・健康・介護を専門とする放送局のキャスターとして、現場取材、医師、コメディカル、厚生労働省担当官との対談など数多くの医療番組に出演。医療コンテンツの企画・プロデュース、シンポジウムのコーディネーターなど幅広く活動している。自身が症例数の少ない病気で手術、長期入院をした経験から、「患者の視点」を大切に医師と患者の懸け橋となるような医療情報の発信を目指している。日本医学ジャーナリスト協会正会員、ピンクリボンアドバイザー。

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