川栄李奈、結婚・出産を経ても引っ張りだこの「日常を演じる」才能
フィクションを日常であるかのように
そんな川栄さんは26歳になったばかりですが、すでに50本を超えるドラマや映画、舞台に出演。その中で、最も彼女らしい傑作を選ぶなら、スペシャルドラマ「夕凪の街 桜の国2018」(NHK総合)かもしれません。「この世界の片隅に」で知られる漫画家・こうの史代さんの「夕凪の街 桜の国」を実写化して、原爆の悲劇を描いたものです。
日本では戦後、このテーマのドラマや映画が数多く作られ、特に女性が主役の作品が目立ちます。古くは吉永小百合さんに田中好子さん、最近では、のんさんや松本穂香さん、芳根京子さんといった、さまざまな女優たちがヒロインを演じてきました。
ただ、こうしたテーマの場合、見る側もちょっと構えてしまいます。ともすれば、遠い昔の出来事として、現実そのままではないフィクションなのだと割り切りたくなったりもします。
その点、川栄さんのこの作品は容赦ありません。ストーリー的には、被爆した少女が10年後、恋人との出会いを通してようやく、原爆のトラウマを吹っ切れそうになったとき、原爆症を発症して亡くなるというもの。発症まではつらくともどこか明るさもある展開で、彼女の日常感あふれる演技も相まって、どこにでもいる若い女性の成長物語にも思えていました。
それだけに、発症からの絶望、苦痛、諦めという展開は衝撃的で恐怖すら覚えたものです。しかも、その悲劇がごくごく普通の人間の身に起きるという現実を彼女の自然でリアルな演技があらわにしていました。これほど原爆の残酷さを表現した作品はなかなかない気がします。
彼女が評価され、求められる理由はこういうところにあるのでしょう。シリアスでもコミカルでも、主演でも助演でも、フィクションを日常であるかのように見せることができる才能。インタビューでは「仕事がなくなる日も来ると思っている」(モデルプレス)とも話していますが、これほどの人を芸能界が手放すとは思えません。
4年前、彼女は「今の若い子が大人になったときに『川栄李奈っていう女優、昔はAKBだったんだ!』って後から気付かれるくらいの存在になりたい」(イータレントバンク)と語りました。その夢はすでにかないつつありますし、何なら、それ以上の未来が待っているかもしれません。
彼女が女優として、AKBをも超える存在になるのではという未来です。
(作家・芸能評論家 宝泉薫)
コメント