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「テセウスの船」を動かす上野樹里、ぎこちなさの天才という迫真の魅力

元気な義母、理解ある夫の存在が力に

 2016年、ミュージシャンの和田唱さんと結婚。これにより、料理研究家の平野レミさんが義母になりました。結婚というのは、周囲のイメージや評価に影響しますし、何よりも本人の意識を変えます。一例を挙げるなら、本木雅弘さんは樹木希林さんの娘婿になることで、役者として飛躍的成長を遂げました。

 上野さんも最近、こんな発言をしています。

「なんせ義理の母が、元気のかたまりのようなレミさんだから(笑)。レミさんをお手本にして、私もポジティブにがんばらなくちゃ」(「ESSE」3月号)

 また、和田さんとの関係はアーティスト同士の自立した夫婦という印象です。昨年主演した「監察医 朝顔」(フジテレビ系)に取り組んでいた時期などは、夫が食事の用意をしてくれていたとか。つまり、元気な義母や理解ある夫の存在がパワーや余裕をもたらし、それが演技にも反映されているのでしょう。

 ちなみに、ダイワハウスのCMでは頼りない夫を力強く包容する妻を演じていますが、「テセウスの船」でも「涼真くんがヒロインで、上野さんがヒーローみたい」だという声が聞かれます。母性本能をくすぐるタイプの竹内さんとの組み合わせは絶妙で、現代の若い女性の好みにも合っていそうです。

 そして「ぎこちなさ」はここでも健在です。こういうドラマは、台本で先の展開を知っている役者が予定調和な演技をしてしまいがちなのですが、彼女には全くそれがありません。運命を知らない人のように、戸惑い、驚き、打ちのめされながらも立ち上がります。そこが迫真のリアリティーを生み、また、このぎこちなさはせつなさも醸し出します。

 いわば、ぎこちなさの天才。こうした天然系自然体の演技は、例えば、大竹しのぶさんのような一握りの役者にしかできないものです。

 上野さんはこの稀有(けう)な魅力で「テセウスの船」の“航海”を素晴らしい冒険へと導いていくことでしょう。

(作家・芸能評論家 宝泉薫)

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宝泉薫(ほうせん・かおる)

作家、芸能評論家

1964年岐阜県生まれ。岩手県在住。早大除籍後「よい子の歌謡曲」「週刊明星」「宝島30」「噂の真相」「サイゾー」などに執筆する。近著に「平成の死 追悼は生きる糧」(KKベストセラーズ)、「平成『一発屋』見聞録」(言視舎)、「あのアイドルがなぜヌードに」(文春ムック)など。

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