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キングコング、初登場「ENGEI」で見せた安定感 経験に裏打ちされた圧倒的“強さ”

絵本作家とYouTuberの道へ…

 一方で、西野さんはひそかに野望を抱いていました。それは、テレビの世界で成功して本物のスターになることです。しかし、キングコングとして多くのレギュラー番組を抱え、「はねるのトびら」がゴールデンタイムに繰り上がり、20%を超える視聴率を獲得するようになっても、スターになったという実感は得られませんでした。上の世代の成功した芸人に並ぶような存在感を確立できていなかったのです。

 西野さんは大きな挫折を味わい、別の道を探すことにしました。それは絵本を描くこと。極細のペンで膨大な時間をかけて細部まで描き込まれた絵本は、出版されるたびに話題になっていました。

 この制作の過程で、彼は作品を作ることだけではなく、それをいかに売るかということにも興味を持ち始めました。それ以降、西野さんはさまざまなビジネスを手掛けるようになり、クラウドファンディングやオンラインサロンなども活用して、芸人でありながら起業家のような存在になりました。

 梶原さんは、2018年に「カジサック」としてYouTuberデビューを果たしました。始める時には、1年後の年末に登録者数が100万人に達しなかったら「芸人を引退する」と宣言しました。これは梶原さんが本気でYouTubeに取り組む決意の表れでした。

 結果、梶原さんはYouTuberとして成功を収め、2019年7月に目標だった登録者数100万人を達成したのです。その成功の理由は、彼が真剣だったということに尽きると思います。

 テレビによく出ている有名な芸能人なら誰でも、YouTubeで成功できるわけではありません。テレビとYouTubeでは客層も、視聴者に求められていることも違います。YouTubeの文脈に合わせた動画を作り続けなければ、結果を残すことはできないのです。

 梶原さんは最初の段階で有名なYouTuberに頭を下げて、アドバイスを受けていました。そして、彼らとのコラボ動画を作ることで、普段からYouTubeを見ている層に自分の存在を認知させようとしたのです。

「プロの芸人がYouTuberに頭を下げる」というのが実は画期的なことでした。多くの芸人には芸人としてのプライドがあるため、笑いの素人であるYouTuberに対して、下から入ることがどうしてもできません。でも、梶原さんはあえてこれをやったのです。ここにも、彼の本気がうかがえます。梶原さんの収入は既にYouTubeを始める前の数倍になっているそうです。

 これだけ個々の活動が目立つ中でも、彼らは漫才をずっと続けてきました。今のキングコングの武器は若さや元気の良さではなく、それぞれが経験を重ねて手に入れた、芸人としての「強さ」です。“絵本作家”と“YouTuber”の二人による華やかな漫才は、大型特番のトップバッターとしてふさわしいものでした。

(お笑い評論家 ラリー遠田)

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ラリー遠田(らりー・とおだ)

作家・ライター/お笑い評論家

1979年名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ、お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。「教養としての平成お笑い史」(ディスカヴァー携書)「とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論」(イースト新書)など著書多数。

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