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市川海老蔵、舞台復帰! 疲労の背景にあった思いと、勸玄君という“収穫”

急性咽頭炎のため「七月大歌舞伎」を休演し、復帰した市川海老蔵さん。その背景には、元来のストイックさに加え、さまざまな思いがあったと筆者は見ます。

市川海老蔵さん(2018年6月、時事通信フォト)
市川海老蔵さん(2018年6月、時事通信フォト)

 今年は勸玄君の活躍もあり、大盛況となっていた七月大歌舞伎ですが、その主役・市川海老蔵さんが突然、休演することになりました。興行途中に病気で休演するのは初めてのことです。理由は「急性咽頭炎」。原因は疲労と、菌が声帯に付着し、発声困難になったことだそうです。

 昼の部は、本興行で務めるのは初めての「素襖落」新歌舞伎十八番の舞踊劇。初役があるだけで大変なのに、次は「外郎売」。自分のことより大変だと語る、息子・勸玄君の世話もあります。夜の部は「星合世十三團」で約5時間半の長丁場!1人13役に挑んでいます。ほぼ出ずっぱりで、早替わり、派手な立ち回りに膨大なセリフ、さらには宙乗りまでと、大げさではなく休む暇がありません。

 夜も遅く、早朝はトレーニングや子どもたちとの時間に充てていて睡眠時間がほとんどありません。ずっと舞台上にいるので、きちんと食事を取る時間もないのです。

 海老蔵さんは、なぜこれほど無理をするのでしょうか。

一人の「外郎売」はまだ早いはずだったが…

 歌舞伎は月ごとにテーマがあります。七月は別名「奮闘公演」とも呼ばれ、過去には、当時の猿之助さんも奮闘してきた歴史があります。ここ最近は、七月の歌舞伎座は海老蔵さんに任されてきました。今年は元来のストイックさに加え、團十郎襲名の重み、海老蔵として最後の七月大歌舞伎、誰もやっていないことをやる…など幾つもの思いが重なったのだと思います。

 無理をする一方、数年前から「働き方改革」を訴え、休演日を作ることもしてきました。歌舞伎はひと月25日間、昼夜で50公演が基本のスタイルです。では、休演日を入れればいいかというと、単純にそういうわけにもいかないようです。興行的に成り立つということは大前提ですし、長くこのスタイルで続けてきたのに、変える必要はないと考える人もいるかもしれません。この件は今後、議論がなされる可能性があります。

 今回、収穫があるとすれば、勸玄君の想像以上の働きぶりです。実は1カ月前の取材で海老蔵さんは「勸玄に、来年は外郎売を付き添い(海老蔵)なしで一人でやってみるかと聞いたら、それはまだ早いと言われました」と笑っていたのに、まさかこんなに早くその日がやって来ようとは、誰が想像できたでしょうか。

 登場のシーン、花道に出る前の揚幕の奥からは、通常なら海老蔵さんの「小田原名物~外郎~外郎~」という声が聞こえてくるのですが、そのセリフを勸玄君が言いながら出てきたのです。

 花道をたった一人で歩き、一人で見得をします。舞台上では割ゼリフといって、海老蔵さんのセリフを皆で割って進めているので、きっかけやタイミングなどは迷いがちですが、勸玄君は一度もきっかけを間違えたり戸惑ったりすることなく、立派に務め上げました。

 海老蔵さんは3日間休んで復帰したため、急ぎ取材に向かいましたが、こちらも前日まで声が出なかったとは思えないほどの回復ぶり。まさに、舞台上で“戦う”親子を見せてもらった気がしました。

 ただ、今後の歌舞伎界のためにも、お体だけはご自愛いただきたいと切に願います。

(芸能リポーター 島田薫)

島田薫(しまだ・かおる)

芸能リポーター

東京都生まれ。帝京大学文学部卒業。在学中からイベント司会やナレーターのアルバイトに従事し、卒業後は大手損害保険会社に就職。その後、1年で退職し、テレビ・ラジオのリポーターに転身する。TBS系「モーニングEYE」、テレビ朝日系「スーパーモーニング」「ワイド!スクランブル」に出演。「ワイド!スクランブル」では、事件・芸能などのリポーターとして13年間、ほぼ毎日、取材活動を行う。フジテレビ系「バイキングMORE」、朝日放送テレビ「キャスト」、中京テレビ「キャッチ!」などに出演中。

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