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「ご自由にお持ちください」の張り紙があっても…ごみ捨て場の食器、家電を持ち帰る“法的リスク”とは

ごみ捨て場などには「ご自由にお持ちください」という張り紙とともに食器や家電製品、ぬいぐるみなどが置かれていることがあります。こうした物を持ち帰った場合の法的責任について、弁護士に聞きました。

ごみ捨て場などに捨ててある家電や食器などを持ち帰るリスクは?(画像はイメージ)
ごみ捨て場などに捨ててある家電や食器などを持ち帰るリスクは?(画像はイメージ)

 転勤や進学などで春に引っ越しを控えている人の中には、今から不要品を処分する人も多いのではないでしょうか。集合住宅のごみ捨て場や戸建て住宅の前などに「ご自由にお持ちください」という張り紙とともに食器や家電製品、ぬいぐるみなどが置かれているのを見掛けることがあります。このような行為は、「ご自由にお持ちください」という内容の張り紙を貼っていたとしても不法投棄に該当する可能性はあるのでしょうか。

 また、このような形で置かれた物を持ち帰った場合、持ち帰った側が法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の弁護士・佐藤みのりさんに聞きました。

窃盗罪に問われる可能性も

Q.集合住宅のごみ捨て場や戸建て住宅の前に「ご自由にお持ちください」という張り紙とともに食器や家電製品、ぬいぐるみなどが置かれていることがあります。この場合、物を置いた人が法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。理由や刑罰も含めて、教えてください。

佐藤さん「集合住宅のごみ捨て場に、食器やぬいぐるみなどが包まれて置かれていた場合、それが収集日であれば、『ご自由にお持ちください』という張り紙の有無にかかわらず、通常のごみと同じように回収されるだろうと思います。収集日、場所、分別方法などのルールに従っている限り、法的責任を問われることはありません。

一方、ごみ収集の場所に指定されていない戸建て住宅の前に、食器や家電製品、ぬいぐるみなどの不要品を置いておく行為は、『ご自由にお持ちください』の張り紙の有無にかかわらず、自治体ごとに定められたごみ出しのルールを守っていないと評価される可能性があります。

廃棄物の処理および清掃に関する法律16条は『何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない』と定めており、この規定に違反した場合の罰則は『5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金またはその併科』と定められています(同法25条1項14号)。ルールを守らないゴミ出しは、厳密に言えば、この法律に抵触する可能性があるので注意が必要です。

ただし、『みだりに』捨てたといえるかどうかは、判例上、『生活環境の保全および公衆衛生の向上を図るという法の趣旨に照らし、社会的に許容される』かどうかという視点から判断されます(最決2006年2月20日決定)。

自宅の前に、『ご自由にお持ちください』という張り紙をして、食器や家電製品、ぬいぐるみなどの不要品を置いておくケースでは、生ごみを放置する場合などとは異なり、生活環境や公衆衛生に与える影響は限定的ですし、リサイクル目的がうかがわれ、『社会的に許容される』として、罰せられない可能性が高いと思います」

Q.ごみ捨て場に捨てられている物を勝手に持ち帰った場合、どのような法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。自治体の粗大ごみ処理券が貼られている物を持ち帰った場合、粗大ごみ処理券が貼られていない物を持ち帰った場合、それぞれのケースで教えてください。

佐藤さん「ごみ捨て場に捨てられている物を勝手に持ち帰った場合、通常、捨てた人は所有権を放棄しているため、窃盗罪などの罪に問われないケースが多いです。

しかし、例えばマンションのごみ捨て場など、所有者がごみを出した瞬間に、ごみ捨て場の管理者に占有が移ったと評価できるケースもあり、そのような場合、刑法235条の窃盗罪に問われる可能性があります。法定刑は10年以下の懲役または50万円以下の罰金です。

また、資源ごみについては、各自治体が条例により、持ち去りを禁じていることがあるので、注意が必要です。粗大ごみ処理券が貼られているかどうかは大きなポイントではなく、法的責任を問われるかどうかは、条例の内容によると考えられます」

Q.では、ごみ捨て場や戸建て住宅の前などに「ご自由にお持ちください」という張り紙とともに置かれた食器や家電製品、ぬいぐるみなどについてはいかがでしょうか。この場合もごみ捨て場の管理者に占有が移ったと評価され、物を持ち帰った時点で窃盗罪に問われる可能性があるのでしょうか。

佐藤さん「先述のように、物を捨てた人は所有権を放棄しているため、物を持ち帰っても罪に問われないケースが多いと思います。しかし、ごみ捨て場によっては、そこに物を置いた時点で、占有がごみ捨て場の管理者に移ったと評価されることもあり、その場合、論理的には窃盗罪が成立します。

また、自治体によっては、食器や家電製品、ぬいぐるみといったごみについても、条例で持ち去りを禁じているところがあり、その場合、窃盗罪や条例違反に問われる可能性があります。

たとえ、『ご自由にお持ちください』の張り紙があったとしても、ごみ捨て場の管理者や自治体との関係で罪に問われる可能性はあるので、注意しましょう」

Q.ちなみに、ごみ捨て場や戸建て住宅の前などに不要品を放置したことによる事例、判例はありますか。

佐藤さん「個人が少量の不要品を、ごみ捨て場や自宅前などに放置したことにより、刑事事件になったケースはないのではないでしょうか。不法投棄の容疑で逮捕されるケースは、数トンなど、多量のごみを投棄する、悪質性の高い事案が多いように思います」

(オトナンサー編集部)

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佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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