住まい、お金… 「親亡き後」にどう備える? 自閉症・8歳息子の母が取り組む“居場所”づくり
自閉症などの障害を持つ子どもが、親が亡くなった後も生活を続けるためには、どのような備えが必要なのでしょうか。自閉症の息子を育てる女性ライターが解説します。
ライター、イラストレーターとして活動するべっこうあめアマミさんは、知的障害を伴う自閉症がある8歳の息子と、きょうだい児(障害や病気を持つ兄弟姉妹がいる子ども)の5歳の娘を育てながら、発達障害や障害児育児に関する記事を執筆しています。
自分の親の老後について、不安に思う人は多いと思います。しかし、自分が年老いた後、ひいては「親亡き後」の子どもの生活に不安を抱えている人は、それほど多くはないのではないでしょうか。障害がある子どもを育てる親が悩み続ける「親亡き後」の問題について、アマミさんが考えたことを伝えます。
息子の老後が不安
お盆に実家に帰省したとき、仏壇の横に祖父母の米寿のお祝いをしたときの写真を見掛けました。祖父母はすでに他界しましたが、高齢者施設のお世話になりながらも、亡くなる前まで私の両親が足しげく通ったため、幸せな人生だったと思います。
両親が祖父母をみとっていったのを見て私の脳裏に浮かんだのは、私は親の老後以前に、息子の老後を考えなければならないという事実でした。私の息子には、重度知的障害を伴う自閉スペクトラム症があります。息子の障害の重さを考えると、1人で生きていくことは難しいでしょう。
しかし、自分の親はみとることができる場合が多いですが、自分より長く生きるであろう子どもの場合、そうはいきません。
障害がある子どもを持つ親にとって、子どもの親亡き後の問題は、非常に悩ましいことなのです。
小学生のときから「親亡き後」の話題に
一般的な小学生の子どもの親が考える「子どもの将来」というと、「高校や大学を卒業して何かしらの仕事に就き、家庭を持つ」などのイメージではないでしょうか。
しかし、特別支援学校の小学部に通う息子の将来を考えるとき、私はそんなイメージは持てません。息子は今後、さまざまなことを学んだとしても、生涯にわたり何らかの支援が必要であることに変わりはなく、進路の選択も非常に限られると思うからです。
もちろん、作業所での就労や障害者雇用枠での就職といった将来も考えます。しかし、もっと重要な問題として、息子が生涯、安心して過ごせる居場所や支援体制、住まいを考えずにはいられないのです。重度の障害がある子どもを育てる親にとって、恐らくこの悩みは共通だと思います。
息子が通う特別支援学校からは、定期的に親亡き後に関する講演会の案内が届きます。地域の親の会からも同様の案内が届きますし、ママ友との会話でも親亡き後の話題が出てきます。子どもが10歳にも満たないうちからです。
あるとき、ママ友にこう聞かれたことがあります。
「子どもが将来安心して過ごせる施設を探そうと思ったら、いつから動けばいいと思う?」
私は答えました。
「高校(高等特別支援学校)を卒業するくらいかな」
ママ友は言いました。
「『中学に入ったら』らしいよ。そのくらい早くから探し始めても、すぐには入れないんだから」
誰かがいなくならなければ空きが出ないため、障害者施設では、受け入れに何十年待ちというケースも多いと聞きます。
「ここなら子どもを安心して預けられる」と思うような施設は、誰もがそう思うため、特に競争が激しいでしょう。
いろいろな施設の情報を集め、見学して吟味するのにも時間がかかります。私はこのとき、障害がある人の親亡き後の居場所探しの現実を思い知らされた気がしました。
「親亡き後」の講演会に行ってみた
息子の将来について漠然とした不安を抱えていた私は、地域の知的障害者の親の会が主催する、親亡き後に関する講演会に参加してみました。
息子は、小学校入学前に、障害がある子の発達を支援する施設である「療育」に通っていましたが、会場では息子と同じ療育に通っていたお子さんのお母さんたちに会いました。
皆さん、息子と同じ小学生の子どもを持つお母さんです。改めて、この問題に対する関心の高さがうかがえました。
親亡き後の子どもの生活で何が一番不安かというと、恐らく「住まいとお金」と答える人が多いのではないでしょうか。実際に、講演会でも住まいとお金に関する話が大きく扱われました。
私はお金については、漠然と「たくさん残さないといけないのだろう」くらいに思っていました。
しかし実は、障害がある子どもにはお金をたくさん残すのではなく、そのお金が本人のために使われる仕組みを準備することが大切だと聞いて、目からうろこが落ちました。
障害がある子どもがお金をたくさん持っていても自分で管理できないため、「成年後見制度」などを使って人に管理してもらう必要が出てくるかもしれません。子どもにお金を残しておくための遺言や、その内容でトラブルが起きないように家族内でよく話し合っておく必要性もあります。
ただ、こういった制度は、今後変わっていく可能性があります。講師がおっしゃった「『親があと10年くらいは大丈夫』だと思うなら、そこまで焦らなくてもよいのではないか」という言葉に少しホッとしました。
住まいや居場所についても、講師から前向きな情報を伺うことができました。障害がある人の住まいは、制度の変化や新たな取り組みも出てきているため、選択肢が広がりつつあるそうです。「いずれは施設に入所させたい」と考えているのなら、親が元気なうちに入所できた方が、週末は家に帰って過ごしながら少しずつ施設に慣れていけるため、本人の負担が少ないと話していて納得しました。
実際に講演会に行って話を聞いてみると、それだけで少し安心するものです。今後も情報収集のアンテナを張り続けながら、じっくり息子の将来の暮らしの場を考えていきたいと思います。
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