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知的障害を伴う“自閉症”の8歳息子、「虫歯」経験なし 母親が語る“大切な心掛け”とは?

女性ライターが、知的障害を伴う自閉症がある8歳の息子の虫歯を防ぐための対策について、紹介します。

虫歯の経験がない自閉症の8歳息子(べっこうあめアマミさん作)
虫歯の経験がない自閉症の8歳息子(べっこうあめアマミさん作)

 ライター、イラストレーターとして活動するべっこうあめアマミさんは、知的障害を伴う自閉症がある8歳の息子と、きょうだい児(障害や病気を持つ兄弟姉妹がいる子ども)の4歳の娘を育てながら、発達障害や障害児育児に関する記事を執筆しています。

 毎年6月4日から10日は、「歯と口の健康週間」です。この時期は、日本歯科医師会などが、歯と口の健康に関する正しい知識の普及を目的に、さまざまな啓発活動を行います。

 子どもたちの多くは甘い食べ物や飲み物が好きですが、その場合、虫歯のリスクが常につきまといます。特に子どもに発達障害や知的障害がある場合、虫歯になったときの大変さは計り知れないと思います。今回は、アマミさんが、自身の息子の虫歯を防ぐための対策について、紹介します。

歯の健康は「虫歯になる前から」

 障害がある息子を育てていると、療育(障害のある子の発達を支援する施設)で知り合ったママ友たちや、障害者の親の会などで、口腔(こうくう)ケアが話題に上がることがよくあります。なぜなら、発達障害や知的障害がある子にとっては、「虫歯になってから」ではなく「虫歯になる前から」のケアが非常に重要だからです。

 幼稚園や保育園、学校でも歯科健診はありますし、毎日歯磨きをして、虫歯になったら歯科医院に行けばよいと思われるかもしれません。しかし、障害がある子が虫歯になった場合の治療の大変さを聞くと、悠長なことは言っていられない実態があります。

診療を断られる場合も

 以前、障害がある子どもを持つ親御さんから、お子さんが虫歯になったときの治療の壮絶さをお伺いしたことがありました。

 障害の特性により、お子さんは治療をおとなしく受けることができず、暴れてしまったため、個人の歯科医院では治療ができなかったそうです。そのため、専門病院に何度も通って治療をしていたということでした。

 誰にとっても、虫歯の治療は不快な感覚や痛みを伴うものです。障害の特性により、治療の必要性を理解することが難しければ、不快感から暴れてしまい、安全な治療のために身体拘束などもやむを得ないことがあるかもしれません。

 発達障害などからくる感覚過敏がある場合も、口腔内の刺激をより強く感じてしまい、治療を受けることが難しくなることも多いでしょう。このほか、多動症などでじっとしていることが難しいお子さんや、慣れない場所での「場所見知り」が激しいお子さんも、虫歯の治療はハードルが高いものだと思います。

 障害を持った人の治療が難しいことは、ある程度予想できることから、歯科医院で障害があることを伝えると、診療を断られることもあります。私も、息子の歯にフッ素を塗ってもらいたいと歯科医院に打診した際、「息子に障害がある」と告げた途端に診療を拒まれたことがありました。

 ただ、障害者の歯科治療を行っている病院は、それほど多くありません。紹介状が必要な場合がありますし、病院の場所によっては、移動に時間がかかる場合もあるでしょう。また、予約から受診までの間にかなりの日数を要する可能性もあります。

 子どもにとっても、安全のために体を押さえつけられた状態で、強い痛みをこらえながら治療を受けるのはつらいでしょう。親にとっても、そんな子どもの姿を見るのはつらいと思います。

 このように、治療が必要な状態となった場合、さまざまな負担が親子に大きくのしかかってくるのです。

定期的に歯科医院に通う大切さ

 負担を避けるために、私がママ友や親の会などで何度も勧められたことがあります。それは、幼い頃からかかりつけ歯科医を見つけ、虫歯になる前から定期的に病院に通うことです。

「異常がないのに歯医者さんに行ってどうするの?」と思われるかもしれません。しかし、定期的に歯科医院に通うことで、子どもが「歯科医院は怖い場所ではない」と認識し、その上で歯科医師と信頼関係を築いていくことが大事なのです。

 私も息子が療育に通っていたとき、このことを強く勧められたため、近所の歯科医院に定期的に通うようになりました。

 初診の際、息子は診察室に入った後、そのまま診察台に座ることができました。しかし、中には診察室に入ることから練習が必要なお子さんもいるでしょう。そんなときは、少しずつ段階を踏んでいくことで、徐々にできるようになっていくのではないかと思います。

 初めて行った歯科医院で、いきなり痛い治療から始めると、子どもは歯科医師に対して嫌なイメージを抱いてしまいます。しかし、「虫歯になる前から」通うことで、歯科医師に対してよいイメージを持ちやすくなるのではないでしょうか。

 なお、息子は最初、診察台には座っても、診察台が倒れることには少し抵抗があったようです。私にとっては何ともないことだと思っていましたが、息子にとってはこの「少しだけ高くなった場所で横になる」行程が苦手だったようです。歯科医院で診療を受けるとき、息子は何に対して不安を抱いたり不快感を覚えたりするのか、これは実際に行ってみなければ分からないことでした。

 今でもその日の気分によっては、座ったまま横にはなりませんが、息子は歯科医師と仲良くなったので、笑顔で歯磨きをしてもらったり、歯にフッ素を塗ってもらったりしています。

 そして、歯科医院に通うことで何より安心なのは、息子の歯の状態を定期的に確認してもらえることです。息子は重度の知的障害があり、話すことができません。そのため、たとえ虫歯ができたとしても、それを訴えることは難しく、私も気付くことができる自信はありません。しかし、歯科医院に行くことで、虫歯の有無を確認できるので、ありがたいと感じています。

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べっこうあめアマミ(べっこうあめあまみ)

ライター、イラストレーター

知的障害を伴う自閉症の息子と「きょうだい児」の娘を育てながら、ライター、電子書籍作家として活動。「ママがしんどくて無理をして、子どもが幸せになれるわけがない」という信念のもと、「障害のある子ども」ではなく「障害児のママ」に軸足をおいた発信をツイッター(https://twitter.com/ariorihaberi_im)などの各種SNSで続けている。障害児育児をテーマにした複数の電子書籍を出版し、Amazonランキング1位を獲得するなど多くの障害児家族に読まれている(https://www.amazon.co.jp/dp/B09BRGSY7M/)。「べっこうあめアマミ」というペンネームは、障害という重くなりがちなテーマについて、多くの人に気軽に触れてもらいたいと願い、夫と相談して、あえて軽めの言葉を選んで付けた。

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