「新年会」参加で急性アルコール中毒、ホーム転落事故 労災が認められる? 社労士に聞く
新年会シーズン真っただ中ですが、もし、宴会中や帰宅中にけがをした場合、労災として認められるのでしょうか。専門家に聞きました。

年が明け、新年会シーズンに入りました。すでに終わった人もいれば、これから参加する人もいると思いますが、気を付けたいのが宴会中や宴会後の事故です。毎年、飲み過ぎて急性アルコール中毒になったり、帰宅中に駅のホームに転落したりするなどの事故が発生しています。もし、宴会時や宴会後にけがをした場合、労災として認められるのでしょうか。社会保険労務士の木村政美さんに聞きました。
「参加費用が会社負担」などが条件
Q.そもそも、新年会は業務に当たるのでしょうか。また、宴会中や帰宅中にけがをした場合、労災として認められますか。
木村さん「新年会の最中、または帰宅中にけがをしたことで労災を申請する場合、業務遂行性(業務として認められるか)と業務起因性(けがの原因が仕事そのものと関係があるか)の2点を総合的に見て、認定するかどうかの判断をします。
具体的には、業務遂行性は(1)新年会の開催目的について業務との関連性があり、業務命令として参加を強制されていること(2)参加中に残業代などの賃金が支払われていること(3)参加費用が会社持ちであること(4)行われる時間帯と所要時間について妥当性があること――などが挙げられます。
業務起因性から見た場合は、酒酔いが原因の転倒やつまずき、けんかなどによるけがは業務とのつながりが認められず、労災認定されない可能性が高いです。
さらに、宴会後に帰宅中、けがをしたことで労災認定を受けるためには、宴会が業務であることに加えて『宴会場と住居との間を合理的な経路や方法で移動する』という条件を満たすことが必要です。帰宅中に寄り道をした後にけがをすると、労災認定されない可能性があるので気を付けましょう」
Q.社員がほぼ全員参加する1次会と、希望者が参加する2次会以降の宴会で、労災が認められるかどうかに差はあるのでしょうか。
木村さん「先述のように、社員が全員参加する1次会でも、労災が認められるかどうかは業務遂行性と業務起因性、そして、帰宅中のけがの場合は、さらに帰宅経路により判断されます。
2次会以降の宴会に参加すると次の理由により、労災の認定がより難しくなります。(1)1次会からの流れでの酒席と捉えることができ、単なる飲み会扱いと判断される可能性が高い(2)1次会に比べると参加の任意性が高い(3)2次会が行われる時間帯(開始時間が遅い)や所要時間などについて勘案すると、業務遂行性があるとみなされにくい――などです」
Q.新年会の幹事を上司から命じられていた場合、業務性の有無、労災認定の可否に影響するでしょうか。
木村さん「幹事を命じられた場合、宴会の趣旨が、業務に必要な目的(取引先を接待するなど)か、それとも単なる社内行事(主に社員間の親睦が目的)かによって業務性の有無は変わります。
ただ、社内行事としての幹事を任された場合でも、『まったく業務ではない』と言い切れるとは限りません。業務かどうかの判断は労災を申請した際に、過去の決定事例を参考にしたり、労災の判断基準に落とし込んだりして決めることになります」
Q.新年会以外で、例えば、直属の上司など会社の人とお酒を飲んだ場合は業務に当たるのですか。また、その宴席の際や帰宅中に事故が発生した場合、労災として認められるのでしょうか。
木村さん「まず、上司の誘いが業務命令に当たるかどうかを検証します。主な判断基準の一例として『誘いを断った場合、その後の社内待遇に関して不利益があったり、人事考課に影響したりするか』『酒席の場が業務と直接関係があるか(職場のコミュニケーションをよくするためなどの理由は、業務と直接関係があるとはいえない)』『誘いを断ることが可能か』です。
特に、親睦を深める目的で飲んでいる場合、『業務命令だ』と言われたので上司の誘いを断れないと考える場面でも、それは単なる言葉のあやで、他の人は同様の誘いを断って済んでいる場合もあります。
以上を踏まえると、上司との酒席は業務に該当しないことがほとんどで、宴席中や帰宅中でのけがが労災として認定されるのは難しいと思われます。なお、任意で飲みに行った場合は、仕事として認められないので労災の申請はできません」
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