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「ミステリと言う勿れ」ヒットの立役者? 伊藤沙莉がエンタメ界に求められるワケ

ヒロインとして引っ張りだこ

 同作で役者としての新たな引き出しを見せている伊藤さん。しかし、彼女といえばコメディーのイメージが強いと思われる方も多いでしょう。

 前述の「ひよっこ」で演じた安部さおり、「いいね!光源氏くん」シリーズ(NHK総合)の藤原沙織、「モモウメ」(Hulu)など、思わずクスッと笑ってしまうコミカルな役こそ、伊藤さんのお家芸といった節があります。

 そんなパブリックイメージが、映画「ボクたちはみんな大人になれなかった」(2021)や「ちょっと思い出しただけ」(2022)などのラブストーリーでヒロインを演じることで覆されつつあります。いえ、さらなる魅力が上塗りされつつあるのです。

 森山未來さん演じる主人公が、ふとしたきっかけから過去に交際していた女性・かおり(伊藤さん)を思い出し、過ぎ去った甘酸っぱい交流を懐古する物語「ボクたちはみんな大人になれなかった」は、特にセンセーショナル。

 映画「獣道」(2017)や「タイトル、拒絶。」(2020)などで、攻めた演技もできる役者であることは周知されていたものの、これほどまで情感たっぷりに、消えない痕を記憶に残すような女性像を形にしてみせる伊藤さん。これまでの、どのヒロインにも当てはまらない、鮮烈で繊細な表現を目の当たりにしたことで、彼女の底知れなさを思い知ることとなりました。

底知れない魅力

「ボクたちはみんな大人になれなかった」を例に挙げてみましょう。同作で描かれる”忘れられない女性”かおりは、見た目にはごく普通。雑誌に載っているスカートは高くて買えないから、と自作したり、お気に入りの映画を何度も繰り返し見たりと、少し風変わりな面はあれど、破天荒とは言えません。

 いわゆるサブカルチャーで通じ合い、交流を重ねる主人公とかおりは、ぎこちないながらも仲を深めていきます。

 何年たっても忘れられないほど、主人公が彼女に対して執着した理由――。それはきっと、”普通”のカテゴリーにいながら”普通”を抜け出そうとした、かおりの内面に積もる苦しみ、悩み、焦りに共鳴していたからではないでしょうか。

 それらは決して、表には出ないもの。お互いに、内側に巣くう情動に気付いたからこそ、別れの言葉を口にできなかったのかもしれません。

 あえて行き先を決めない、突発的な日帰り旅行に主人公を誘い出すこともあった、かおり。世間と同じように就職し、生計を立てようとする主人公を、元の”いるべき場所”へ引き戻すかのようでした。それがかなわなかったからこそ、彼女は最後まで明確に自分の考えを言葉にしなかったのでしょう。

 かおりから沸き立つ、謎めいた魅力をスクリーンいっぱいに表現する伊藤さん。物語のあらすじや、かおりというキャラクターの人柄を文章で追っただけでは、その姿をイメージすることは難しいかもしれません。

 しかし、この映画を目の当たりにした後では、伊藤さん以外にあり得ないと痛感します。そこに、キャスティングの妙があると思えてなりません。

 伊藤さんのすごいところは、ここまで幅のあるジャンルや役柄を演じながらも、まだまだ余力が残っていそうな点にあります。底知れない謎めいた魅力に、まだまだ驚かされる日がくることでしょう。

(ライター 北村有)

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北村有(きたむら・ゆう)

フリーライター

邦画・国内ドラマ関連のコラム記事やレビュー記事、インタビュー記事を手掛けるフリーライター。主な執筆媒体は「cinemas PLUS」「RealSound映画部」「ROOMIE」「TV LIFE」「Workship MAGAZINE」など。ツイッター(https://twitter.com/yuu_uu_)

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