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「ウクライナ侵攻は悪」だから? ロシア関連の店や人々に相次ぐ嫌がらせ、法的問題は?

ロシアのウクライナ侵攻後、日本国内でも、ロシアやロシア人に絡んだものが攻撃される事態が相次いでいます。こうした行為は、どのような法的問題があるのでしょうか。

ロシア関連のもの、すべてが悪?
ロシア関連のもの、すべてが悪?

 ロシアのウクライナ侵攻開始後、日本国内のロシア食品専門店への嫌がらせと思われる行為が起きるなど、ロシアやロシア人に絡んだものが攻撃される事態が相次いでいます。ネット上では「ロシア政府やプーチン大統領に責任があるのであって、ロシアの国民に責任はない」という声もありますが、こうした嫌がらせ行為は、どのような法的問題があるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

「正義心の暴走」で量刑重くなる可能性

Q.東京都内のロシア食品専門店が看板を壊されたとの報道がありました。壊した行為にはどのような法的問題がありますか。

佐藤さん「他人の店の看板を壊せば、建造物損壊罪または器物損壊罪という罪に問われる可能性があります。看板の形状が建物の一部となっている場合は建造物損壊罪(刑法260条、5年以下の懲役)、建造物とは評価できないような場合は器物損壊罪(刑法261条、3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料)になりますが、いずれにせよ犯罪です。

また、民事上も不法行為となり、壊した看板の損害を賠償する責任を問われることになるでしょう」

Q.容疑者が捕まったとして、看板を壊した理由に、ロシアのウクライナ侵攻を挙げた場合、量刑などに影響するのでしょうか。

佐藤さん「壊した本人としては、ロシアのウクライナ侵攻への抗議の意味で、正義心から行ったことなのかもしれませんが、そうした動機は量刑において有利に考慮されることはないでしょう。

ロシア政府に対する批判を、ロシア人やロシア食品専門店を営む個人に向けるのは、明らかに間違っており、何の罪もない人々への差別につながります。正義心の暴走が社会に与える影響は大きく、むしろ、量刑において不利に考慮される可能性も否定できません。

戦争反対の声を上げることには大きな意味があると思いますが、方法を誤らないことが大切です」

Q.ロシア人のサイトに誹謗(ひぼう)中傷を書き込む人もいるようです。こうした行為の法的問題は。

佐藤さん「ネット上で特定のロシア人に対して誹謗中傷を書き込んだ場合、内容によっては、侮辱罪(刑法231条、拘留または科料)などの犯罪が成立する可能性があります。また、民事上も、不法行為となり、慰謝料などの損害賠償責任を問われる可能性があります」

Q.誹謗中傷についても、ロシアのウクライナ侵攻を理由として主張した場合、量刑などに影響するのでしょうか。

佐藤さん「誹謗中傷の場合も、先述した破壊行為の場合と同様で、量刑において有利に考慮されることはなく、不利に考慮される可能性さえあるように思います」

Q.「ロシア」と付くだけで差別的に扱うことの法的問題は。

佐藤さん「ロシア政府の問題と、ロシア人一人一人は区別しなければならず、『ロシア』と付くだけで、ひとくくりにして差別的に扱うことは、『ヘイトスピーチ』に当たる可能性があります。

『ヘイトスピーチ』とは、特定の国の出身者であることやその子孫であることのみを理由に、日本社会から追い出そうとしたり、危害を加えようとしたりするなどの一方的な言動のことです。

ヘイトスピーチに関する法律としては、いわゆる『ヘイトスピーチ解消法』(正式名称:本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律)があり、不当な差別的言動は許されないことが宣言されています。

差別的言動は連鎖し、広がってしまう恐れがあります。自らの行為が不当な差別につながらないか、行動する前に、一度立ち止まって考えることが大切でしょう」

Q.ロシア政府の行為について、ロシア国民や在日のロシア人の責任を問えるのでしょうか。法的責任、道義的責任、両方でご見解をお聞かせください。

佐藤さん「ロシア政府の行為について、ロシア国民や在日のロシア人に法的責任はなく、道義的責任も含め、国民に責任を問うことは難しいと思います。

確かに、民主主義国家では基本的に、国民の選挙によって、国政を行う政治家が決まります。しかし、各国によって民主主義の在り方は大きく異なり、『国民が、戦争をすると決めた政治家を選んだのだ』といえないこともあります。

個人への責任追及を考えるのではなく、どうすれば一刻も早く戦争が終わり、平和が戻るのかを考え、私たち一人一人が、それぞれの立場でできることに取り組むことが大切なのではないかと思います」

(オトナンサー編集部)

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佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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