オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

キレイと褒められたら…日本人「そんなことないです」、欧米人「ありがとう」 謙遜はやめるべき?

「欧州の女性を『きれい』と褒めたら『ありがとう。母のおかげよ』と返されて驚いた」という趣旨の投稿が話題になりました。これをきっかけに、投稿者は日本の「謙遜文化」を見直したそうです。

「謙遜」を美徳とする日本の文化はおかしい?

 SNS上で先日「謙遜」に対する日本と海外の考え方の違いが話題となりました。投稿者は欧州で暮らし始めた頃、現地の女性に「あなたはきれい」と伝えたところ「ええ、ありがとう。母のおかげよ」と返されて驚いたといい、「日本では普通『いえいえそんなことないです~』と謙遜しますが、よく考えればこれは自己否定+価値を認めた相手も否定し、みんなの価値を落とす言い方」だと悟ったそうです。

 これについて「ほめてくれた人に感謝の気持ちを伝える方が大事」「素直に『ありがとう』と言ったら、『そこは謙遜しなさい』と年上に言われたことある」「奥ゆかしさという日本の文化でもあるから全否定はよくない」など、さまざまな声が上がっていますが、異文化交流の専門家の見方はどのようなものでしょうか。異文化ビジネスコンサルタントのジョン・リンチさんに聞きました。

米国では「うそつき」と思われる

Q.日本の謙遜文化についてどう思われますか。また、日本の謙遜文化は海外でどのように評価されているでしょうか。

ジョンさん「謙遜はある意味『美徳』ですが、文化によっては全く違う解釈をされます。米国の場合、明らかに上手なのに『上手じゃない』、美人なのに『美人じゃない』という人は『うそつき』だと思われるのです。また、英語が上手なのに『すみません、あまり話せません』と謝る人がいますが、そのような返答はうそである上に時間を無駄にしたり、コミュニケーションが不明瞭に思えたりなど、さまざまなネガティブな印象を与えます。また、たとえばビジネスミーティングやプレゼンの場で意見を聞かれた時、日本人は手を上げませんね。自分の方から答えようとしなかったり、質問をしようとしなかったりすることも一種の謙遜です。日本では『聞かれたら話す』『聞かれなかったら話さない』は美徳ですが、海外では『能力がない』『自信がない』『やる気がない』などと評されます。グローバル社会では、自信のない人の意見は別に聞きたいものではないので、自信があるように英語で話さなければなりません。海外において謙遜は『混乱させる』『ビジネスチャンスを失う』『信頼を失う』『時間を無駄にする』ことを意味するので、海外で謙遜は控えるべきでしょう」

Q.日本の謙遜文化がもたらすメリットとデメリットについて教えてください。

ジョンさん「謙遜のメリットは『偉そう』と思われないことです。相手の話を聞く、先に周囲の意見を聞く、空気を読む、相手の気持ちを読む、といった形の謙遜であればよいと思います。しかし、海外の場合、良い点は説明をしないと『良いところはない』と思われてしまいます。日本のようなハイコンテクスト文化(=暗黙の了解が多い社会)であれば『言わなくても分かる』のですが、海外や米国はローコンテクスト文化であり『言わなかったこと=ないこと』になります。社会全体が謙遜すれば良質なアイデアは出ませんし、誰が優秀な人なのかも分からず効率が悪いのです。優秀な人は謙遜せずに『優秀です』と言う方がよいのではないでしょうか」

Q.日本の謙遜文化は、政治や経済、社会、外交のあり方にどのような影響を与えていると思われますか。

ジョンさん「たとえば、日本は世界一のシニアケアやグリーンエネルギーの技術を持っていますが、日本人は謙遜しながら自国の商品を売るので、外国人は『それほど良い商品ではないのか』と思い、買わないケースがあります。それは、高価である理由をうまく伝えていないからです。『この商品は素晴らしいですよ』『健康に良いです』『最先端です』などと、最初からはっきりと伝えた方が絶対に良いはずです。海外では、自信のある人が信頼されます。たとえば、手を見せながらまっすぐに立ち、笑顔で皆と目線を合わせると『この人は自信のある人』と感じられます。自信のありそうな人はリーダーになれます。しかし、手を前で組んでしまう人は『自信がない』『トイレが近い』を意味してしまい、リーダーにはなれません。謙遜は信頼の失墜につながりかねないのです」

1 2

John Lynch(ジョン・リンチ)

異文化ビジネスコンサルタント

英国出身。ブリストル大学卒。1990年に来日後、株式会社インテック・ジャパンに入社、国際ビジネスコミュニケーションスキルを指導する。2010年にビジネスコンサルティング会社Tsunagoを設立。日本での豊富なビジネス経験を生かし、100社以上の日本及び外資系企業でトレーニング・営業・マーケティングの企画・コンサルを行う。現在は、日本型ビジネスの強みである「品質・顧客サービス・チームワーク」と欧米の「戦略・セールス」などの良さを併せ持つ「J-グローバル型ビジネス」を広めることを目的に、東京に「J-グローバル・インスティチュート」(http://jglobalinstitute.org/instructors-2/)を設立。日英バイリンガル授業を日々提供している。

コメント