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「青天を衝け」が“タブレットを持つ徳川家康”で伝えたかったもの

NHK大河ドラマ「青天を衝け」と連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」には“歴史の連続性”を描いている共通点が。その理由に筆者が迫ります。

吉沢亮さん(2020年2月、時事通信フォト)
吉沢亮さん(2020年2月、時事通信フォト)

 大河ドラマ「青天を衝け」(NHK総合)が12月26日に最終回を迎えました。放送回数、全41話は1年放送の大河としては史上最少ですが、描かれた時代は最長レベルです。吉沢亮さん扮(ふん)する主人公の渋沢栄一が91歳まで生きたということもあり、幕末から明治、大正、昭和初期までがその舞台となりました。

 しかも、この大河はさらに欲張りでした。短い回数で長い時代を描くだけでなく、そこにもっと、長期的な視点を加えたのです。

歴史の連続性をアピール

 その一つが、北大路欣也さん扮する徳川家康をドラマの案内役、いわゆる「狂言回し」にしたことでした。江戸幕府を開いた人がその終焉(しゅうえん)から始まる数十年の激動の時代を解説していくことにより、歴史の連続性をアピールしたのです。

 このアイデアを思いついたのは脚本を手掛けた大森美香さん。12月10日放送の「あさイチ」(同)では、難しいと言われる幕末モノを分かりやすくするための工夫だったと明かしました。

 つまり、視聴者とドラマを結びつけるような存在を探すうち、「幕府を始めた人が幕府を終わらせる話をしてくれたら、スッと届くんじゃないかな」と考えたそうです。

 なお、この家康はタブレットを眺めながら登場したりもしました。これは演出側のアイデアだったようで、大森さんも「あれは私もビックリしました」とのこと。400年以上も前の英雄が令和のアイテムを持つ姿は歴史を身近に感じさせました。

 また、栄一は長寿だっただけでなく、子だくさんでした。子孫は各界で活躍していて、その一人が音楽家の尾高忠明さんです。今回、NHK交響楽団が演奏する「青天を衝け」メインテーマを指揮しています。

 12月18日に放送された「名曲でたどる『青天を衝け』の世界~渋沢栄一 ゆかりの地からコンサート~」(同)では、こんな思い出を披露していました。子どもの頃、教科書を見て、「渋沢栄一ってやつが銀行を作ったの?」と母親に聞いたところ、「あなたのひいおじいちゃんよ」と返され、驚いたそうです。

 農民から幕臣となり、江戸幕府の終焉に立ち会った後、明治、大正、昭和の実業界で活躍して、企業や人材も残した栄一。令和には新1万円札の顔となります。これほど、歴史の連続性を感じさせる人はなかなかいないでしょう。

史上初の試み「カムカムエヴリバディ」

 ところで、歴史の連続性といえば、NHKの朝ドラこと、連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」にもそれがうかがえます。通常、1人の女性の人生を描くことが多い枠ですが、この作品は親から子、孫へと3代にわたる100年の物語だからです。

 ヒロインは上白石萌音さん、深津絵里さん、川栄李奈さんのリレー形式。長い年月を3人の女優で描いた朝ドラとしては、大ヒット作の「おしん」(1983年度)があり、明治から大正、昭和までをたくましく生き抜いた主人公を、小林綾子さん、田中裕子さん、乙羽信子さんが演じました。

 ただし、これは同じ人物の少女期、壮年期、老年期を演じたもの。別々の3人をリレー形式で描くのは史上初の試みです。

 しかも、「おしん」が1年かけて、七十数年の年月を描いたのに対し、「カムカムエヴリバディ」は半年で100年を描きます。こちらも複雑な物語をテンポよく詰め込まなくてはならず、随所に苦労が見られます。

 例えば、第38回。初代ヒロインの安子が倒れ、思いを寄せる米国人男性に介抱され、抱き合うところを、岡山から大阪まで訪ねてきた小学校1年生の娘・るいに見られてしまい、親子関係が亀裂するという話が軸でした。

 そこに、るいの捜索や、安子の親友の出産、恋敵的存在の女中の妊娠、さらに喫茶店の主人が戦争から帰国した息子と再会するといったエピソードが盛り込まれ、その息子を見つけて、岡山に連れてきたとも推測される米国人男性と安子が偶然会い、2人で米国に旅立つことになります。

 そのタイミングで主題歌が流れ、時代が十数年経過。深津さん扮する、18歳になったるいが2代目ヒロインとして姿を現すわけです。それはまるで、土曜日に放送されるダイジェストのような、目まぐるしい15分でした。また、深津さんが実年齢より30歳若い少女の姿で登場したことも話題になったものです。

 実は「青天を衝け」でも、終盤の畳み掛けるような進行や老け役を演じる役者たちの変化が注目されました。歴史の連続性を表現するには、そういった苦労が不可欠と言えます。

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宝泉薫(ほうせん・かおる)

作家、芸能評論家

1964年岐阜県生まれ。岩手県在住。早大除籍後「よい子の歌謡曲」「週刊明星」「宝島30」「噂の真相」「サイゾー」などに執筆する。近著に「平成の死 追悼は生きる糧」(KKベストセラーズ)、「平成『一発屋』見聞録」(言視舎)、「あのアイドルがなぜヌードに」(文春ムック)など。

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