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ヤンキーから総理大臣へ 仲村トオルが築いたキャリアと再び引っ張りだこの現在

TBS系連続ドラマ「日本沈没−希望のひと−」で存在感を発揮し、今年は「ネメシス」「八月は夜のバッティングセンターで。」など精力的な活動が目立つ仲村トオルさん。その魅力について、専門家に聞きました。

仲村トオルさん(2016年1月、時事通信フォト)
仲村トオルさん(2016年1月、時事通信フォト)

 放送中のTBS系連続ドラマ「日本沈没−希望のひと−」(毎週日曜 後9:00)に出演している仲村トオルさん。

 1973年に刊行された小松左京さんの小説「日本沈没」が原作の同ドラマは2023年の東京を舞台に、環境省の官僚・天海啓示(小栗旬さん)や経済産業省の官僚・常盤紘一(松山ケンイチさん)らが日本沈没という未曽有の危機に立ち向かっていく姿を描いたストーリーで、仲村さんは国民から高い支持を得る内閣総理大臣・東山栄一を演じています。

 同作の他、今年は「トッカイ ~不良債権特別回収部~」(WOWOW)や「ネメシス」(日本テレビ系)、「八月は夜のバッティングセンターで。」(テレビ東京系)、「密告はうたう 警視庁監察ファイル」(WOWOW)に加え、11月12日に主演映画「愛のまなざしを」が公開予定など、精力的な活動が目立つ仲村さん。その特徴や魅力について、作家・芸能評論家の宝泉薫さんに聞きました。

現実離れの総理大臣?

 仲村さんは1985年公開の映画「ビー・バップ・ハイスクール」の主演オーディションに合格し芸能界入り。俳優デビューとなった同作での演技が高い評価を受け、「第10回日本アカデミー賞新人賞」「第41回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞」など数々の新人賞を受賞しました。

 1986年に放送が始まり、その後、シリーズ化された人気ドラマ「あぶない刑事」(日本テレビ系)では新人刑事・町田透を演じ、作品のヒットとともに知名度が大きく上昇。その後も大河ドラマ「信長 KING OF ZIPANGU」(NHK総合)や「29歳のクリスマス」(フジテレビ系)、「眠れる森」(同)や「氷の世界」(同)など話題作への出演が続きました。

 2002年に韓国で公開された映画「ロスト・メモリーズ」では“韓国のアカデミー賞”とも称される「第39回大鐘賞助演男優賞」を外国人として初めて受賞する快挙を達成。以降、「海猿」(同)や「華麗なる一族」(TBS系)、その後、劇場版も公開された「チーム・バチスタ」シリーズ(関西テレビ・フジテレビ系)の他、映画「北のカナリアたち」「6−ロクヨン− 前編/後編」など、出演した作品はいずれもヒットを記録し、俳優として確固たる地位を築いていきました。

 デビュー以降、これまで、多くのヒット作に出演してきた仲村さん。宝泉さんは「デビュー時からのイメージと人気を保ち続けている俳優」と評します。

「デビューから35年以上が経過した現在でも、同世代の俳優が多くいる中、埋もれることなく、作品の中で存在感を放ち続けていることに加え、主演から脇役まで幅広くこなせる姿はさすがの一言。デビュー時からのやんちゃな雰囲気もありつつ、誠実な印象もある俳優で、そのイメージと人気を損なうことなく、さまざまな役柄を丁寧にこなしてきた印象です」(宝泉さん)

 宝泉さんは話題を集めている「日本沈没−希望のひと−」での仲村さんの存在についても言及しています。

「世間の注目度という観点からも、近年の出演作の中では今回の『日本沈没』が一番インパクトのある作品ではないでしょうか。加えて、総理大臣役ということでも注目を集めていますが、官房長官役を杉本哲太さんが務めているなど、デビュー時からヤンキー的なイメージが強かった2人が長年のキャリアを重ねて、現在、こういった役柄を演じているのも面白いなと感じました」

「現実には、仲村さんのように若くてシュッとした総理大臣はあまりいないとは思うのですが、ドラマの中ではこれがベストなキャスティング。現実離れという点では前作『TOKYO MER』で東京都知事役を務めた石田ゆり子さんもそうでしたが、権限を持っている役柄を務める演者が、ある程度の誠実さを持っていないとドラマの後味が悪くなってしまうため、その点において、仲村さんの存在は今作で抜群の効果を発揮していると考えられます」

主役から脇役への移行がスムーズに

 デビューから現在に至るまで、宝泉さんは仲村さんの俳優としての役割やポジションに変化があったと話します。

「デビュー作『ビー・バップ・ハイスクール』でいきなり、主演を務めたということもあって、そのインパクトがあまりにも大きく、主演イメージの強い印象がありましたが、1990年代後半から2000年代に入ったあたりからは脇役でも出演することが増えました。『海猿』『華麗なる一族』『チーム・バチスタ』シリーズなど、要所要所で出演した作品でもしっかりと結果を出し、主演もやりながら、脇役でも存在感を示せることをうまく表現できたように思います」

「主役から脇役への移行がスムーズにできたのも、欲を前面に出さない感じであったり、あまりガツガツしていない印象が大きな要因と考えられます。欲がガンガンあるように見える人は主役から脇役になったとき、格が下がったような印象を持たれがちですが、仲村さんにはそれが当てはまりませんし、デビュー時から持っている“やんちゃさ”と“誠実さ”はどんな役を演じるときも武器となり、現在のポジションにも通ずるものがあるのではないでしょうか」

 宝泉さんは仲村さんの今後の方向性についても言及しています。

「これまでのキャリアを振り返ってみても、主役から脇役まで幅広く演じ、さまざまな役柄を務めてきた仲村さんは、やっていないような役というのがほぼほぼないようにも感じるのです。かといって、今後、何か奇をてらったものを見たいというわけではありませんし、そもそも、求められているとも思いません」

「役者というのは、演技の幅を広げるためにいろんな役をやろうとする人が多いですが、仲村さんの場合は今のままのスタイルを貫く方向でいいのではと思うのです。一時期、露出が減ったこともありましたが、これまで十分なキャリアを積み、結果的に息の長い役者として現在まで活躍できていることが何よりの信頼の証しであり、業界もファンもそれを望んでいるように感じるのです」

(オトナンサー編集部)

宝泉薫(ほうせん・かおる)

作家、芸能評論家

1964年岐阜県生まれ。岩手県在住。早大除籍後「よい子の歌謡曲」「週刊明星」「宝島30」「噂の真相」「サイゾー」などに執筆する。近著に「平成の死 追悼は生きる糧」(KKベストセラーズ)、「平成『一発屋』見聞録」(言視舎)、「あのアイドルがなぜヌードに」(文春ムック)など。

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