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無料だからといって…「試食品」の食べ過ぎは法的責任を問われない?

デパ地下の食品売り場では「試食品」が店頭に置かれているケースもあり、中には、試食品を大量に食べる人もいるようです。無料だからといって、試食品を食べ過ぎることに法的問題はないのでしょうか。

試食品を食べ過ぎたら…?
試食品を食べ過ぎたら…?

 デパートの地下にある食品売り場「デパ地下」では、総菜や地方の名産品の「試食品」を店頭に置いていることがあります。店員が笑顔で「ご自由にご試食ください」と呼び掛けていることもあり、喜んで食べる人も多いのですが、中には「1人でそんなに食べるの?」と思ってしまうほどの量を食べる人もいるようです。

 無料だからといって、試食品を食べ過ぎることに法的問題はないのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

1人で食べ尽くすと「窃盗罪」?

Q.無料だからといって、試食品を食べ過ぎることに法的問題はないのでしょうか。もし、罪になるとすれば、どのような罪になり得ますか。

佐藤さん「試食品を食べることはもちろん、食べた後、商品を購入しなかったとしても法的に問題はないのが原則です。これは、店側が無料での試食を認めているからです。しかし、極端に大量に食べた場合、法的問題が生じることもあります。例えば、提供されている試食品を1人で食べ尽くしたり、何度も来店して、同じ試食品を大量に食べたりといったケースです。

こうした場合、店側の許可の範囲を超えていると考えられ、理論的には窃盗罪が成立し得るといえます。さらに、例えば、食べ過ぎを店側から指摘された客が逆上し、『ご自由にって言っていたじゃないか。文句あるのか』などと大声で騒ぎ、食べ続けるようなことがあれば、店の営業を妨害したことになり、威力業務妨害罪が成立することも考えられます」

Q.店員が「ご自由にご試食ください」と呼び掛けている場合、客が試食品を食べ過ぎようが、客の自由とはならないのですか。

佐藤さん「『ご自由にご試食ください』との呼び掛けがあったとしても、客の完全な自由とはなりません。なぜなら、試食品とは、商品の存在や味を紹介し、消費を促すために提供されているものだからです。店側としては、商品の存在や味を知ってもらい、購入するかどうかを判断するのに必要な量を無料で提供しているにすぎません。

そのため、その範囲を超えて食べてしまえば、店の意思に反して、商品を盗んだのと同じことだと考えられます」

Q.試食品を極端に多く、もしくは長時間食べ続けた場合、逮捕されることもあり得るのでしょうか。

佐藤さん「先述したように、窃盗罪や威力業務妨害罪が成立する可能性がありますが、試食品の食べ過ぎによって、逮捕に至るケースはほぼないでしょう。店側も客とトラブルを起こしたいわけではないので、多少多く食べていても許すでしょうし、あまりに極端な場合であっても、個別に注意するにとどめ、すぐに警察に被害を届けるとは考えられないからです。

逮捕に至るのは、店側の注意を聞かずに食べ続けたり、注意を受けても何度も来店して、同様の行為を繰り返したりする悪質なケースに限られます。実際、スーパーにおいて、無料で提供されている氷を大量に持ち帰ろうとし、店長から注意を受けたにもかかわらず、応じなかった客が窃盗罪の容疑で現行犯逮捕されたケースがあります」

Q.とはいえ、食べ過ぎになるかどうかの線引きが分かりません。どれくらい試食品を食べると、食べ過ぎとして罪になるのでしょうか。

佐藤さん「『店側の意思に明らかに反した量』といえるでしょう。常識に照らし、明らかに試食の範囲を超えていると考えられるほど大量に食べた場合が問題になります。例えば、2個や3個であれば、試食の目的の範囲内であり、店側も問題としないことがほとんどでしょう。一方、提供された試食品の半分以上を1人で食べたとすると、試食の域を出ているようにも思います。

提供されている食品の種類や提供のされ方などにもよりますが、試食の目的に照らし、極端に多く食べるのは避けましょう」

Q.試食品を食べ過ぎても、その試食品を購入すれば、罪は許されるのでしょうか。

佐藤さん「先述したように、試食品の提供はその商品の購入を促すためになされているので、試食品を購入すれば、店側が被害を届けるといった事態は考えにくくなると思います。ただし、理論的には、試食の目的を超えて、大量に食べた時点で窃盗罪は成立しており、後から試食品を購入したとしても、罪が消えるわけではありません。

購入しさえすれば許されると考え、試食品でおなかを満たそうとするのは避けた方がよいです」

Q.北海道産のうになど希少な試食品の場合であっても、客側は罪に問われないために、どれくらいで試食をとどめるべきでしょうか。

佐藤さん「希少だったり、高額だったりする試食品の場合も、その他の試食品と同様、商品の味を確かめ、購入するかどうかの判断に役立つ範囲の量にとどめるようにしましょう。実際に罪に問われるのは、極端に大量に食べてしまうケースに限られると考えられますが、罪に問われないとしても、マナーを守ることは大切です。

試食品は小さなカップなどに入れられて提供されることが多く、1種類につき、1人で1つが原則ではないでしょうか」

(オトナンサー編集部)

佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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