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有村架純「恋に落とす力」を生む明るさ、寂しさの絶妙すぎるバランス

連続ドラマ「コントが始まる」での演技が話題で、雑誌「FLASH」の「春ドラマ『ヒロイン女優』人気調査」でも1位に輝いた有村架純さん。筆者はこの結果を「恋に落とす力」によるものと分析します。

有村架純さん(2020年1月、時事)
有村架純さん(2020年1月、時事)

 5月1日に放送された連続ドラマ「コントが始まる」(日本テレビ系)の第3話で、有村架純さん扮(ふん)するヒロインの壮絶な過去が明かされました。それは、結婚を約束していた相手に捨てられ、仕事ではトラブルの責任を全て背負わされ、生命力を失い、廃人のようになっていたというもの。ネット上では、有村さんの淡々としながら胸に迫る、この告白の場面が絶賛されました。

 有村さんといえば、雑誌「FLASH」5月4日号が掲載した「春ドラマ『ヒロイン女優』人気調査」でも1位に輝いています。筆者はこの結果についてコメントを求められ、1位の決め手は「恋に落とす力」だと指摘しました。彼女にはどんな恋愛シチュエーションでも「相手が恋に落ちること」に納得させられる魅力があるのです。

孤独な少女マーニーへの共感

 例えば、代表作の一つである連ドラ「中学聖日記」(TBS系)。教え子の中学生と両思いになるという「禁断の愛」が、彼女が演じると違和感がなく、むしろ応援したい気持ちにさせられました。

 また、4月19日放送の「しゃべくり007」(日本テレビ系)では「架純ちゃんの告白を断れるか選手権」という企画が組まれました。「コントが始まる」で共演している菅田将暉さん、神木隆之介さん、仲野太賀さんが有村さんに「私と付き合って!」と言われ、思わずOKしてしまうという趣向です。こういう企画が成立すること自体、彼女の「恋に落とす力」が突出していることの証明と言えます。

 昨年の連ドラ「姉ちゃんの恋人」(関西テレビ・フジテレビ系)での役も印象的でした。演じたのは交通事故で両親を亡くし、弟たちの面倒を見ているしっかり者。林遣都さん扮する、不運な形で前科持ちになってしまった青年と恋に落ちます。

 ここでの彼女はいつにも増して、明るさと寂しさのバランスが絶妙でした。癒やしてくれる明るさと、守ってあげたくなる寂しさとが随所に感じられ、このバランスこそが「恋に落とす力」の源泉だと気付かされたものです。

 では、そのバランスはどこから生まれているのでしょうか。7年前に公開されたアニメ映画「思い出のマーニー」のパンフレットで、有村さんは興味深い自己分析をしています。

 この作品は、杏奈とマーニーという2人の少女の不思議な交流を描いたもの。有村さんが声優として演じたのは「すごく明るくて品のある女の子なんですけど、実は家庭の事情が複雑で、いつも寂しい思いをしている」というマーニーです。「すごく孤独を感じているのに、それを表に出さずに明るく振る舞っているところ」などについて「ああ、すごく分かる」と思ったといいます。

 その共感は、彼女自身の生い立ちから来ているところも大きいのでしょう。有村さんもまた、中1の時に親が離婚し、母子家庭ゆえに経済的にも恵まれず、高校時代には週6日アルバイトをしていたそうです。そんな経験が、明るさと寂しさが常に行ったり来たりするかのような性格を形成していったと思われます。

 もちろん、そういう家庭環境だけで女優になれるわけではありません。彼女の場合、女優を志してから、世に出るまでの下積み時代がプラスになったと考えられます。

 高1の時、現在の事務所のオーディションに応募したものの不合格。関西弁を直すこととダイエットすることを求められ、1年後に再挑戦して合格しました。しかし、すぐには芽が出ず、NHKの連続テレビ小説「あまちゃん」(2013年前期)でブレークしたのは20歳の時です。

 おそらく、関西弁を直すことは普遍性を大事にすること、ダイエットすることは自分の心身を磨く姿勢を身に付けることにつながったのでしょう。そして、デビューから芽が出るまでの3年間にも、さまざまなことを学んだはずです。

 というのも、彼女の演技スキルは最初から何でもできた人のそれではなく、コツコツとした努力によって培われたものという印象があるからです。それゆえ、その芝居は派手ではないものの堅実で深みがあり、また、演じることに対する謙虚さが感じられます。

 例えば、2016年公開の映画「僕だけがいない街」のパンフレットの中で、彼女は自分が演じたヒロインについて「愛梨は親が離婚して、寂しさや痛みを経験しているから、悟の孤独な部分を感じ取ることができたのでは」と語っています。それでいて、「その距離感や空気感を表現するのはとても難しかった」とも。自分も似た経験をしたから表現できる、という感覚にいきなり飛躍しないあたりが彼女らしさなのです。

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宝泉薫(ほうせん・かおる)

作家、芸能評論家

1964年岐阜県生まれ。岩手県在住。早大除籍後「よい子の歌謡曲」「週刊明星」「宝島30」「噂の真相」「サイゾー」などに執筆する。近著に「平成の死 追悼は生きる糧」(KKベストセラーズ)、「平成『一発屋』見聞録」(言視舎)、「あのアイドルがなぜヌードに」(文春ムック)など。

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